赤い卒業
「早かったな。」
「あぁ。」
俺らは卒業する。短い期間だったがとても楽しかったと胸を張って言える。
いつも来ていた河川敷。
ここに来る事も、もうないだろう。
ふと空を見上げると桜の蕾が今か今かと咲くのを待っているのが見えた。
隣で寝転んでいた青年が口を開く。
「みんなもさ、それぞれの色があって面白い奴らだったよな。最後にあいつが入って来た時は色々大変だったけど、凄い頼り甲斐のある奴だったし。」
「だな。これでお別れだと思うと結構寂しいな。元々人数が多いわけじゃないから、余計皆んなに愛着が湧いちゃってさ。」
不意にみんなの顔が頭の中で思い出される。
クールだけど仲間の事になると熱くなる奴。
普段はおちゃらけてるがいざとなるととても頼りになる奴。
いつも他の人を第一に思って行動してた優しい奴。
文字通り十人十色だった。
みんな色があって、みんな思いがあった。
同じ色の奴は一人もいなかった。
だからこそ喧嘩した時も、みんなに迷惑をかけた事もあった。
だが俺らはいつでも助け合った大切な仲間だというのは紛れも無い事実だ。
誰か一人でも欠けたら俺らではない。それだけはこれからも変わらないだろう。
「そういえばこの服ももうボロボロだなー、
まぁ、ある意味勲章みたいなもんか。」
「いや、勲章以上のものだよ。みんなが休んでる時でもあんなに頑張ったんだぜ?それくらいの価値はあるだろ。」
「それもそうだな。むしろみんなが休んでる時の方が忙しかったけどな。だけど俺らがいなかったらみんな今頃どうなってた事やら」
そう言って苦笑した。
「ところで来年からは誰がやるんだ?」
「カイゾクだって、マスターが言ってた。」
「そっか、強そうだな。これで安心して卒業できるな。」
春を告げる暖かい風が頰に触れた。
ずっとこのままでいたかった。
色々あったが楽しかった。
どんなに大変でも最後には笑えた。
みんなと過ごす時間が愛おしかった。
もっとみんなと過ごしたかった。
後悔は無い。
これから先への不安なども無い。
ただ、
ずっとこのままでいたかった。
それから俺らは帰ることにした。
いつもとは違う帰り道。みんなと過ごしたあの場所とももうお別れだ。
歩く度に、本当にこれで終わりなんだなという気持ちが募ってくる。
夕焼けに包まれた家に入り、久々の部屋を見渡す。
一年前となにも変わっていなかった。
そしてベッドの横に今日撮ったみんなとの写真を置いた。
不意に、涙がこぼれた。
これで終わりだ。
悲しみもあるがそれだけでは無い。
来年はまた別の誰かが同じ運命を辿る。
それの繰り返しだ。
俺らの役目は終わったんだ。
こうやって、季節は巡るんだ。
いつまでも泣いている訳にもいかない。
そう決心して青年は、赤色のヒーロースーツを畳んだのだった。
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