第4話【エリーは不安を覚えた】
ホントにこの人で大丈夫なんだろうか──。
目覚めてすぐに感じたうっすらとした不安は、彼と言葉を交わす内に大きくなっていた。まず第一に、やはり彼からはイマイチ知性を感じない。名前も覚えられないってどういうことなの?
でも、疑心暗鬼になっていても仕方ない。私はもうこの人に頼るしかないのだ。
仮に知性に問題があっても、腕っぷしさえ強ければいいわけだし。
そんな問題の当人──ナイト様は「魔獣?」と首を捻っていた。
「悪意を持って人間を攻撃してくる生物のことです……けど」
「はぁ~、そんなもんが出るのか」
手を顎に添え、間の抜けた声を出すナイト様。
もしかして、彼の元いた世界では魔獣の類は存在しないのかもしれない。
口で説明するより見てもらった方が早いけど、私にも説明責任はある。なにより、彼に失敗されたらもうどうしようもないし。
「魔獣は数多く種類がいますが、この辺りに出るのは獣のように全身が体毛で覆われたタイプです」
「ほーん。熊とか猪みたいなやつか」
「魔獣は獣より高い知性を持ち、人間の言葉も理解します」
「霊長類か」
腕を組み「なるほどな~」と頷くナイト様。
……大丈夫かな? 納得してるっぽいけど、なんか凄く不安。
目を瞑りながら頷いていたナイト様は、ふと目を開けると、今度は首を横に傾げた。
「あれ? で、俺は何を頼まれてたんだっけ?」
「ナイト様には、魔獣から村を守っていただきたいのです」
「俺が? キミたちの村を?」
「そうです。貴方が。私たちの村を。出稼ぎに出ている男性たちの代わりに」
察しの悪……読みが鋭くないナイト様に、今一度こちらの要望を伝える。
鈍いと言えば、この人は突然別世界に召喚されたというのに落ち着き過ぎじゃないだろうか。パニックになられるよりはよっぽどマシだけど、これで戦えないなんてオチだったら、いよいよなんの役にも立たないかもしれない。
「ど、どうでしょうか?」
「ん? ああ、いいよ」
「え?」
恐る恐る尋ねると、彼はなんてことはないように首を縦に振った。
……え、いいの?
「魔獣だかなんだか分からないけど、ようはそいつらを追っ払えばいいんだろ?」
「え、ええ。そうです」
「やったことないけど、まあなんとかなるだろ。その代わりと言っちゃなんだけどさ、宿と飯を用意してもらえるか?」
「引き受けていただけるのであれば、それはもちろん。でも、そんなことで──」
「んじゃ、とっとと移動しようぜ。ボーっとしてたらすぐ暗くなりそうだ」
報酬の話をしようとした私を遮るように、ナイト様はパッと身軽に立ち上がると大きく伸びをした。
報酬とは言っても、彼を召喚する召喚石を用意するために村の財産を割いてしまったので、すぐに大したものを用意することはできない。それでもできるだけのお礼はするし、その説明ぐらいはしたかったんだけど……どうやら、良い人ではあるみたいだ。
「はい、では村に案内します」
少し不安が和らいだのを感じながら立ち上がり、ナイト様の横に立つ。
彼の言う通り、日はだいぶ傾きつつある。日が完全に落ちるまでには村に移動しなければならない。
「ここからなら30分ぐらいで到着すると────っ!?」
道案内をしようと1歩足を踏み出した瞬間、後ろ髪が逆立つような不気味な感覚に襲われた。
「どうしたん?」
「……気配がします」
嫌な気配がした方向から目を逸らさず、私はナイト様に自分の予感を告げた。
「魔獣がこちらに近づいてきています」
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