第2話【エリーはナイト(ウ)と出会った】

失敗したのかもしれない──。


彼と言葉を交わすにつれて、私はそう思い始めていた。

困窮した現状を打開するために、村の僅かな蓄えを割いて召喚石を調達しようという話になったのが約一月前。裏ルートで仕入れた格安の召喚石に若干の不安はあったけど、それでも僅かな可能性を信じるしかなかった。


術式の発動に想像以上の魔力を持っていかれて、意識を失って……それでも目覚めたて彼の存在に気付いたときは心からホッとした。本当に騎士様を呼び出せた。これで私たちも救われるかもって。なのに──


「…………」


なのに、どうしてだろう。

彼と話していると不安が募っていく一方だ。

彼からは……その、なんというか、あまり知性が感じられない。


それに、さっき彼は自分は騎士ではないと言った。他の場所からここに来たことに間違いはなさそうだけど……プロ野球選手? とかいう生業らしい。


「貴方は一体……?」


正直、私たちを救ってくれるなら騎士でも魔術師でもプロ野球選手でもなんでもいい。ただ、戦えないのでは意味がない。

もっと情報がほしい私がそう聞くと、彼はあらたまったように小さく咳払いをした。


「ああ、申し遅れたな。俺は内藤だ」

「…………え?」


あれ、私の聞き間違いかな?


「ごめんなさい、もう1度お願いします」

「ん? ああ、俺は内藤だ」


私が耳を近づけると、彼は飄々と言葉を繰り返した。


……いやいやいや、ちょっと待って。

この人、結局ナイト=騎士なの?


「え、でも、貴方さっき自分はプロ野球選手だって……」

「お? ああ、そうだぞ。正確には春からだけど、プロ野球選手の内藤だ」

「プロ野球選手の……ナイト?」


どういうこと……? 野球っていうのは流派みたいなものなのだろうか?

まあたしかに、一口に騎士と言っても色々あるはずだ。サーベルだったり、レイピアだったり、2刀流だったり、馬に乗ったり。


この人はさっき「バットとボールで戦う」って言っていたから、きっとそういう流派なんだろう。バットなんて聞いたことないけど、武器なのかな?


「騎士様、さっそくですがお願いがあります」


一瞬失敗したかもなんて思ったけど、どうやら杞憂だったみたいだ。

本物の騎士だというのなら、私はこの人を絶対に手放すわけにはいかない。


「お願いは別にいいんだけど、騎士様はやめてくれよ」

「では、なんとお呼びすればよろしいでしょう?」

「普通に内藤でいいって」

「??」


……騎士はダメで、ナイトはいいの?

基準がサッパリ分からないけど、まあそう呼べと言うのならそうしよう。


「ナイト様、お願いがあります」


服の裾を軽く直し、私は座ったまま彼と正面から向き合った。


「私はエルリット・シュガーハート。お願いです、私の村を──この国を救ってください」

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