第26話

冬休み明けすぐにテストが行われた。新年幸先良いスタートを切れた者もいれば落胆やあからさまな開き直りに走る者もいて、この校舎は相変わらず賑わっていた。幸いにも俺はまあまあな点数であり、特に先生から小言を言われることもなかった。俺達の中で唯一追試が与えられたのはゴッチだけだった。


「部活やってる駿より酷いって、あんた恥ずかしくない?」

美久から散々な嫌味を言われても、今のゴッチには響かなかった。とてもわかりやすく彼は開き直っている。

「追試って事はよ、また勉強できるって事だしまたあのテスト独特の緊張感を味わえるんだ。お前らより知識もそう、精神面でも強くなれる。」


登の溜め息が横から聞こえた。さすがの美久も呆れ果てている様子だ。しばしの沈黙に開き直ったゴッチもバツが悪そうに口を尖らせながらおずおずとしている。


「こいつとは一緒に進級できなそうだな。」

「登よ、本当にあり得るからそれは言うな。」



それに比べて登と優里は相変わらず優秀だった。登は学年では10位以内はいつものこと、更に優里は5位以内の常連だった。絵も描けて勉強もできるまさに可憐な女の子の優里に対し、一部の男子には好意を寄せられている事は本人は知らない。


放課後、外はこれが上州名物「北風」かと全身で味わい耳の感覚はもはや寒いより痛いだった。東京も確かに寒いが建物で風が遮られる事もあり、ここまで吹きつけられたのは初めての経験だ。2月頃に雪が降りだすのでは、という予報を人伝に聞いていたが、今からでも降り出しそうな寒さだった。

やっとの思いで橋まで辿り着いた。立ち漕ぎが必要な風で、足も疲労が溜まった。この調子では春には鍛え上げられている気がして、それはそれで男としては嬉しい気分だ。

ここで頭をよぎるのは父とのやり取りだった。ここを離れるかの選択を迫られたあの日の会話だ。残る決意をしたはずが、納得したはずだが、何故か胸に引っかかりがあるのは理解ができなかった。


「あれ?」

ちょうどあの橋に差し掛かった時だった。お馴染みのあの橋の下に見えたのは間違いなく優里の姿だった。下を向いているのはスケッチブックとの睨めっこだろう。確かにコンテストが近いというのは本人から聞いていた。

優里はこの町の景色を毎回コンテストに出し続けているそうだ。同じ景色を描き続ける事に疑問を投げた事がある。

「だって毎回同じなんてないよ。木々の感じや空模様、全部毎回同じなんてないんだよ。」

こいつは大物だなんて思った。本当は近くに行って話しかけたかったが、俺はやめておいた。北風が止んだと同時に、優里の作業はまた始まった。

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