第6話

 ギルドに戻り、私は魔神使いと出会ってからの一部始終を話した。するとどういうわけか、ラットとガラニカの表情がみるみる曇っていく。


「鬼、悪魔」


 とガラニカ。


「そんなだから魔女なんて二つ名をつけられるんじゃない?」


 とラット。


「おいおい、私は殺さなかったし、私刑を与えたわけでもない。命を狙われたのに肉体的な自由を奪うだけで許してやったんだ、相当慈悲深い方だぞ」


 二人の言葉はかなり心外だった。が、確かに黒魔術師の冒険者が何を言ったところで胸を張れるものではないだろう。実際こうして話している今も私の自宅には処女の血で書かれた怪しげな魔法陣があったりするのだから。


「……まあ私が極悪非道か否かはどうでもいい。私達は重要な手がかりを手に入れた。既に王手をかけたと言って良い」


「そいつはそうだ。で、そいつらの拠点をどう叩く」


「ああ、それも一つ考えてある、ずばり隠密作戦だ」


「隠密?確かに私は得意だけど……」


「俺は確かに斥候の心得はあるが、この図体だぜ、純粋に入れない場所が多い」


「わかってるさ。隠密は作戦の前半だ、ラットに建物内に侵入して貰って、内部の構造や魔神使いの人数を確認して貰って、状況に合わせて奇襲する。想定外の事態には臨機応変に対応していく、以上だ」


「うわー凄くバカっぽい」


「だけどま、今立てられる作戦といえばそれくらいだろ。乗ったぜ」


「よし、では次の集会日らしい三日後に決行だ、よろしく頼むぞ」


 そうしてその日、私達は別れた。



***



 その夜。

 自室で眠っていた私は、頬に風を感じて目が覚めた。戸締まりはきちんとしているはずだ、となれば、誰かに窓を開けられたのだろう。私は窓を開けた主に気が付かれないよう、ベッドの中で愛剣を抜く。魔法の発動体を兼ねるこれを、私が手放すことはない。

 気配が近づいてくる。耳元に吐息がかかって気味が悪かった――――――嫌な記憶が蘇る。私は反射的に飛び起き、剣を横薙ぎに振るっていた。手応えは無い。


「何者だ」


 良いながら私はライトの魔法を剣に対し行使した。あたりが光に包まれる、私を夜這いしようとした不届き者は、黒いローブを身に纏い、銀の仮面を着けた人物だった。


「『教団』の人間か」


 私の問いに、銀仮面はあくまで静かに答えた。


「紅蓮の魔女が嗅ぎ回っているという噂は真実だったか」


 無機質な声だ、棒読みの役者のような、世界から浮いた印象があった。


「ならばどうする、ここで私を殺すか」


 こいつは強い。一目見ても実力を測れなかった。自分で言うのもなんだが、私は優秀な賢者セージだ。その私が具体的な強さの程を理解出来ない時点で、こいつは人智を超えた化物であることが逆説的に証明される。


「様子を見に来ただけだ。三日後、楽しみにしている」


 銀仮面は背に翼を生やし、夜の闇へ消えていった。私はベッドの上に座り込んで、汗ばんだ自分の体を見て、風呂に入り直そうなどと現実逃避的な思考を巡らせるのだった。

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