“紅蓮の魔女”と“不可視の鼠”

まつこ

第1話

<はじめに>


本作は、「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。


(C)GroupSNE


(C)KADOKAWA



***


 それは、単なる気まぐれだった。私がいつものように、この『無能地区』に点在する様々な胡散臭い店オカルトショップを見て回った帰りに、少女が暴漢に詰め寄られているのを見かけた。

 この国、マギステルは治安の良い国だ。国を代表する達が運営する、理論だっていて、秩序だった国。しかし、その中でも例外が、この地区だった。少女が路地裏で襲われるなど、それなりにあることなのだ。

 だから最初は見て見ぬふりをしようとした。だが、今日はどうにも虫の居所が悪かったのかもしれない。買い物はあまり良い成果が出なかったし。


「待て、そこまでだ」


 男達の数は三人。皆似たような粗野な顔をしていて、正直見分けはつかない。しかし見た限り、井の中の蛙、というべき実力のようだった。


「あん?なんだ、嬢ちゃんも一緒に可愛がってほしいのか?」


 下卑た男の言葉を無視して、奥にいる少女の様子をうかがった。灰色の髪の上に、三角形の耳が生えているのが見て取れた。恐らくはレプラカーンだろう。ネズミ、だろうか。


「無視してんじゃねえよ、魔法使い気取り!」


 男が拳を固め、私を殴ってくる。だが、そこに私はもういない。私の残像を思い切りすり抜けた男は、狐につままれたような顔でこちらに振り返った。

 ブリンク。第八階位の真語魔法であり、自身の分身を作り出すことで相手の攻撃を確実に回避する魔法だ。この程度の連中に使ってやるには、度を超した奇跡であったかもしれない。


「気取りではないさ……ヴェス・第六階位ジスト・ル・バン火炎フォレム灼熱ハイヒルト爆裂バズカ――――――魔法というのはね、手加減がしにくいんだよ」


 唱えるのは火球ファイアボールの魔法。殺すつもりは無いが、当たり所が悪ければ大怪我をしかねない魔法だ。私の剣の先に集まるマナを感じられたのか、暴漢どもは情けない声を上げて散っていった。私は空中に魔法文字を書いていた剣を鞘に収め、襲われていた少女に声を掛けた。


「レプラカーンが人前に姿を現わして、あまつさえ襲われているなど珍しい、何があった?」


 レプラカーン。人間の少年少女ほどの大きさの人族で、草食動物の耳が生えているのが特徴だ。男性の場合豊かな髭をたくわえている。そして、もう一つの特徴は、彼らは自由自在に、自分の姿を透明に出来るのだ。その種族特徴のおかげで、人前に出ず、密かに暮らすのが彼らの習性のはず、なのだが、目の前の少女は姿を晒している。あるいは、レプラカーンに似た別の種族だろうか。このケルディオンならばあり得ることだ。


「いやいや、連中がアタイが渡した情報が間違ってる、なんて言いがかりをつけてきてね。全く、魔剣の迷宮や奈落の魔域なら兎も角、遺跡が昨日の今日で消えるかっての」


 どうやら彼女は多くのレプラカーンの例からは漏れた存在らしい。その口ぶりからして、彼女の職業は……


「『探し屋』か?」


 探し屋というのは、冒険者を相手に迷宮や遺跡の情報を売ることを稼業にしている者達のことだ。ある程度実力のある冒険者なら羽振りが良いことも多い。今の時代ならば、しっかりと食っていける職業だった。


「ご名答。そういうお姉さんは冒険者だな。凄い、ハイペリオン級なんてそうそう見ないぜ」


 私のマントに刺繍されている剣状の紋様を見て、少女は目を見開いた。

 ハイペリオン級、それは冒険者ギルドが定めている冒険者ランクの名称だ。ハイペリオン級は、最上級の始まりの剣級の次に高いランクである。それは私の実力が、冒険者ギルドに高く評価されているということの証左だ。だが、


「こんなもの大した役にも立たん。それに私の本業は魔術師だ。強大な魔物を倒し、英雄とあがめられるより、世界の真理を解き明かすことの方に興味がある。研究の素材のために、冒険者であった方が都合が良いというだけさ」


「ふうん、変わってるんだ。じゃあお姉さん、お礼に何か欲しい情報は無い?1万ガメル分までならまけてあげよう」


「……お前、別に私が介入しなくとも一人でどうにか出来ただろうに」


 私は彼女のマントを見やる。それは『綺羅星のインバネス』というマジックアイテムだ。スローイングスターという投擲武器を際限無く作り出せるそれは、彼女に戦闘の心得があることの動かぬ証拠だった。それに、見た限り身のこなしも常人のそれではない。私と同等、いや、軽戦士の技能だけでいえば、私より少しばかり上かもしれなかった。


「こんな場所で他人を無償で助けようなんていうお人好しに敬意を表してるのさ。まあ今すぐじゃなくても良いよ、魔術師なら、後々欲しい情報が出てくるだろ?」


「誰がお人好しだ。別に、今欲しい情報など無いよ、欲しければ自分で調べる。じゃあな、もう捕まるなよ」


 私は踵を返し、彼女から離れていく。呼び止められたが、無視して歩いていった。

 これが、私と鼠との最初の出会いだった。


***

キャラクター紹介

“紅蓮の魔女”メディ 人間/女/17歳

探究する国マギステルの無能地区に住む数少ない魔術師。真紅の髪と瞳が特徴。真語魔法の他に黒魔術も嗜むマッド・サイエンティストならぬマッド・ソーサラー。

習得技能:ソーサラー9、フェンサー9、セージ7、エンハンサー2

習得特技:《鋭い目》《弱点看破》《武器習熟A/ソード》《武器習熟S/ソード》《防具習熟A/非金属鎧》《魔力撃》《マルチアクション》

主な装備:エクセレントレイピア、マナコート、ガラスのバックラー、叡智のとんがり帽子、セービングマント


“不可視の鼠”ラット・チュー レプラカーン/女/10歳

マギステルの無能地区にて「探し屋」を営む少女。劇中では今のところ地の文でメディに鼠と呼ばれているだけ。灰色の髪と黒い瞳。遺跡や迷宮の情報だけでなく、政府の要人のクリティカルな情報まで売りさばき、大金が入れば姿をくらます凄腕。

習得技能:フェンサー10、スカウト9、エンハンサー5、アルケミスト5

習得特技:《トレジャーハント》《ファストアクション》《影走り》《ターゲッティング》《スローイングⅡ》《挑発攻撃Ⅱ》《武器習熟A/投擲》《武器習熟S/投擲》

主な装備:ショートソード+1、クロースアーマー、バックラー、綺羅星のインバネス(スローイングスター)


用語解説は、オリジナル要素多すぎ&前提となる知識も多すぎなので追々出来ていけると良いなあ……。

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