四章 - 最後にはあるべきところに収まる11
レジデンスのスタッフの尽力もあり、個展には初日から多くの人が訪れた。志穂は毎日在廊し、言葉は通じないながらも、来る人に感謝を伝えて歩いた。紙の中に埋まったり放り投げて写真を撮ったりする人が多く、その写真がまたほかの人を呼び、最終日になる前に案内ハガキがなくなるほどになった。
「ハガキがなくなったの、これまでで初めてですよ」
壁のペンキ塗りを担当してくれたスタッフが、嬉しそうに志穂に伝える。それは、輝かしい賞ではなかったけれど、初めて海外で展示をした志穂の心を震わせるのに充分なできごとだった。
個展が終わり、志穂は作品を廃棄するためにゴミ袋に入れて片付ける。数枚の紙だけを思い出として残す。その中には赤がついた紙もあった。
アルコはその後、どこへ行ったのかまったく分からない。
空になった会場を掃除してから、両手を合わせて小さくお礼を言う。アーティストとして向き合った最後の空間に、志穂は満足していた。
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