四章 - 最後にはあるべきところに収まる1
アルコの個展が中止になったために、志穂のインストール期間が十日ほど長くなった。アルコは期間いっぱいまでレジデンスに住むことは許されたが、規約違反をしたことで個展やカタログへの作品掲載などは中止となった。
個展以来、志穂がアルコをレジデンス内で見かけることはなくなった。メッセージを送ってみるが、返事はない。部屋で死んでいるんじゃないかと一時は本気で気にしたが、義務づけられたタイムカードに時間が刻印されているのを見て、志穂は一息つく。抜けている日も多いが、深夜に押しに来ているようだ。
志穂は天井か紙の作品を吊るし始める。アーティストとして最後の個展だ。これまでにやったことがないような巨大な作品をつくって発表してみたかった。
志穂はアルコのことも浅倉のことも考えるのをやめ、作業に集中した。網状になっている天井に透明のテグスをかけ、紙を吊るしていく。巨大な紙状の袋は、展示場に居座る主のように見えた。
展示室での作業に疲れ部屋に戻った時、志穂は浅倉からメールが来ていることに気づいた。静やかだった心に針が刺さるような緊張が走る。
志穂はメールを開いた。
「蒼伊様
突然、メールを送ってしまってすみません、浅倉です。
ご存じかもしれませんが、ちょっとした事件があり、現在、釜山の病院に入院しています。
今回、連絡させてもらったのは、あなたの恋人の真山さんがつくった『手と骨』という作品についてです。
あの後、インターネットで作品を調べさせてもらい、作品の画像も見ました。
彼の作品についてちょっと話がしたいのですが、病院に来ていただくことはできないでしょうか」
メールには病院の住所と面会時間が書かれていた。志穂は少し考えてから、明日にでも伺うことができると返信する。少しして浅倉から返事がきた。
「何時でも、都合がいい時間にいらしてください」
志穂は翌日の昼に行くと連絡を入れる。何か手みやげがいるかどうか考えたが、体調が分からないので何も持たずに行くことにした。
翌日病院に着くと、日本語が話せるスタッフに案内され、志穂は浅倉の部屋に向かった。ノックして病室を開けると、右奥のベッドに浅倉の姿が見えた。
目線が合い、軽く会釈して志穂は浅倉のベッドに向かって歩く。それから浅倉が指さしたベッド脇の丸椅子に腰をかけた。
「わざわざご足労いただいてありがとうございます」
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