第11話 伊勢に行こう(後編)
「着いた〜」
「やっぱり混んでたわね」
「まあGWだからね。車の中で寝れたからいいよ」
「まあ、ポジティブね?んじゃチャチャっと仕事終わらせるわよ〜」
軽い口調に呆れつつもわざわざ東京からきてくれたマネージャーのキムさんには感謝をしている。
「キムさん、お昼は何食べる?」
「ん〜?ロケ弁よ」
情緒がない。こんなんだから彼氏もいないのよねと心の中でため息を漏らした。
「Renaちゃん、おはよう」
「アキさん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、突然のお願いだったのに受けてくれてありがとうね」
食堂の一部を控え室として借り切っているらしく、パーテーションの向こうからは時折美味しそうな匂いが漂ってくる。
アキさんに促されて席に座るとテーブルの上には見慣れたメイク道具が広げられていた。
「今日って雑誌の撮影なんですよね?『巡り』って聞いたことないんですけど有名なんですか?」
今日は『巡り』という雑誌の撮影でコンセプトはお伊勢さんデートということらしい。はしゃぐ私を彼の目線から見ている風な?読書とデートというところかな?
なので今日の私はゆるふわパーマを当てられ、スカイブルーの膝丈ワンピにスニーカーというカジュアルなコーデになっている。
「『巡り』は東海地方では定番の情報誌よ。大学のお友達にも聞いてみて?たぶんデートの参考にしてるはずよ」
「へぇ〜、今度サークルの友達に聞いてみますね。ちなみにアキさんも参考にしてるんですか?」
「購読してるよ。デートの参考にしてるもん」
デート?アキさんに彼氏がいるなんて話聞いてないんですけど?
「デートってアキさん!どういう」
「Renaさん、お願いします」
詳しい話を聞こうとした矢先に、スタッフさんが呼びにきてしまった。
「よし!いってらっしゃい」
「後で詳しい話、聞かせてもらいますからね!」
アキさんはニコニコしながら送り出してくれた。
撮影は下宮から内宮、おかげ横丁の順番で行われ、私は彼氏役(後ろ姿とか腕しか写ってない)と一緒に順調に撮影をこなしていった。
おはらい町通りを巡り、赤福本店の先にスタッフさんらしき女性と談笑しているアキさんを見つけた。アキさんと目が合うと手招きしてくれた。
「Renaちゃん、ちょっといいかな?」
「大丈夫ですよ」
「はじめましてRenaさん、『巡り』編集長の古川といいます。今回は急なオファーにも関わらず受けていただきありがとうございました」
「編集長さん?この度はオファーしていただきありがとうございました。Renaです」
編集長さんはパンツスーツ姿でかっちりしてるのに容姿はふわっとした美人な……あれ?
「編集長さん、アキさんとめちゃくちゃ似てません?姉妹レベルですよね?」
2人の顔をマジマジと見比べていると、アキさんと編集長さんは顔を見合わせ笑い出してしまった。
「姉妹レベルか!あははは。うん、そうだろうね。姉妹だもん。そのままだよ」
「なによ秋穂。Renaさんに説明してなかったわけ?」
「まあ、特に必要ないと思って。それに身内からのオファーだと断りにくいでしょ?フェアじゃないじゃない?」
アキさんの言うこともわからなくもないけど、それならオファー受けた後に教えてくれても良かったのに!
「お母さん」
背後からの声に振り返るとそこには小学生くらいのかわいい女の子がいた。
「おかえり、はるちゃん」
はるちゃんと呼ばれた少女は編集長さんの腕に抱きつく。
「ほらっ、お姉さんに挨拶してね」
「おかえりはるか。お姉ちゃんのお友達のRenaちゃんだよ」
心なしか、アキさんのお姉ちゃんという言葉に力が入ってた気がするなぁ。
「はるかちゃん?はじめましてRenaです」
「古川はるか7歳です。秋穂ちゃんがいつもお世話になってます」
そう言ってはるかちゃんは深々と頭を下げた。7歳?しっかりしてるなぁと感心してると「えっ?」という声が背後から聞こえてきた。
「あ、香奈ちゃん。娘の相手してもらってありがとうね。彼氏さんもデートのお邪魔してごめんなさいね」
香奈ちゃん?
まさかと思い後ろを振り返るとそこには驚いた表情で固まっている櫟木先輩とじゅんくんがいた。
「じゅんくん?なんで?」
突然のことであまり頭が回らない。
「モデルってお前のことだったのか」
ため息を漏らしながらじゅんくんが頭を抱える。
「じゅんくん?じゃあRenaちゃん、彼が噂の?」
アキさんが近づいてきて私にしか聞こえない程度の小声で確認してきたので、コクンと頭を下げた。
「あらっ?知り合いなの?香奈ちゃんはうちでバイトしてくれてるスタッフなの。香奈ちゃん今日のモデルの話聞いてなかったの?」
編集長さんは櫟木先輩を不思議そうに眺めている。
「ロケの話とかは何も。いつも取材後のことしか聞かされないので」
「ん〜?そこは改善しなきゃね。スタッフみんなが事前に知っていれば隠れた情報が出てくるかもしれないしね」
「Renaちゃん、Renaちゃん」
アキさんが耳打ちしてくるので横目でチラッと見ると呆れたような表情でじゅんくんを見ていた。
「世間は狭いわね。Renaちゃんの元カレくんの今カノがうちのお姉ちゃんの会社でバイトしてるんだもんね。お姉ちゃんとしては今カノちゃんの味方だろうなぁ」
「……でしょうね。たぶん、私の印象も最低だと思う」
さっきの様子だと櫟木先輩は編集長さんに私のことは話してないみたい。相手はお偉いさんだし、そこまで親しい間柄ではないのかも。
「香奈」
じゅんくんが呼び寄せると、櫟木先輩は小走りでじゅんくんに寄り添うように近づいた。
「撮影の邪魔になりそうですし、そろそろ失礼しますね」
「ううん。娘の面倒見てもらってありがとうね。今度機会を作ってお礼させてね」
じゅんくんは編集長さんと軽い挨拶を済ませて人波に紛れ込んで行った。
「話しかけなくて良かったの?」
心配そうにアキさんが話しかけてきてくれた。けどね、
「仕事中だから。いまは自分の仕事を一生懸命やるだけだよ。それがじゅんくんとの約束だもん」
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