第16話:ドイツで医者に切れた僕、そして隔離病棟へ戻る

アーツビジティ。

トップの医者と対話し、薬や治療の方向性を決めるイベントだ。

これは毎週木曜日の午前中に行っていた。

3週目の僕が隔離病棟へ戻る切っ掛けとなってしまった出来事。


このイベントは、常に大人数の人員で行われる。

医者はヘッド、サブ、薬剤師、カウンセラー、ナース

様々な役職の人が話を聞いたり言ったりする。

目的は、治療方針や経過等を確認し、どうするかを決めるのだ。

本来で有れば有意義になる。

けど、僕が激怒した、正確には一人の医師に。


彼はこの病院で2番目に偉い人だ。

いつも笑顔を絶やさない、話を聞く。

ある意味、良い医者だろう。

優秀かは分からないが、きっと腕も良いんだろう。


事の発端はこうだ。

僕は席を立とうとし、彼が握手を求めた。

前にも言ったが、握手は普通しない。

断る理由も無いので、握手をした。

その時、薬剤師から、追加の質問が有った。

僕はそれに答えていた。

握手した医者は目の前で除菌ジェルを使い手を洗っていた。

僕は言ってしまった。

「僕が居ない所でやってくれませんか?失礼ですよ」

彼はきょとんとしていた

「何がですか?」

僕はイライラしていた。

「握手して医者が手を除菌するのは分かりますが、

 本人の目の前でやるのは失礼でしょ。」

彼はやはり理解していない

「はぁ…」

溜息をついて言ってしまった。

「心療内科の医師が相手がどんな気持ちかを考えないなんて最低ですね」

「菌扱いされた人間がどんな気持ちか理解出来ないでしょうが」

気に入らない、要件も済んだ、だからもう部屋を出た。

彼が何か言っていたが聞き取れなかった。


この後は酷かった、ブルーな気持ちだ。

後悔はしていない、言いたい事は言った。

普通ならスッキリするはずだ。

だがそんな事は無かった。

ただただ、虚しさと悲しさしかない。

何故か泣いてて

疲れた


怒る理由はなんだろう。

僕は他人と自分が同じだと思うから怒ると思っている。

大人が子供に怒らないのは、子供だからだ。

つまり立場や経験が違う。

だが、今回は納得できなかった。

それ位おかしくなってた。

自分でも分からなかった、何故こんなに怒っているのか。

泣くほど怒るのは、人生で初めてだった。


僕はおかしいと思い、泣きながらナースステーションへ行き、

看護師に薬を頼んだ。

看護師は驚いていた、何事かと。

説明を上手く出来なかった。

泣いていて、英語が英語じゃない。

看護師は、「薬の準備をするから、一旦部屋で休みましょう」

と言い、僕は自室へ戻った。


この後、カウンセラーのシュースターさんが来て、

カウンセリングルームへ移動した。

彼はハーブティーを用意し、僕にくれた。

「何があったの?」

と聞いた。

僕は起きた事を説明した。

彼は一つ質問した。

「君は彼の何を怒っているの?」

僕は少し考えた、答えた

「3つある」

「1つは菌扱いされた事に対する怒り」

「2つは無礼な態度を理解しない事に対する怒り」

「3つは当たり前が分からない人への失望」

彼はそれを聞くと、

「分かった」と言い薬をくれた。

薬を飲み、感謝を伝え、部屋に戻った。


カウンセリングルームを出ると、

嫁さんが居た。

どうやら、病院から呼び出された様だ。

彼女は優しく言った「どうしたの」と

僕は同じ事を説明した。

彼女は黙って聞き、納得して言った

「貴方を連れて帰るわ」

僕は答えた

「分かった、お願いする」

彼女はナースへドイツ語で何かを言った。

ナースは電話を取り、誰かに電話をした。


数分後、医者が来た。

医者は嫁さんを連れてオフィスへ行った

僕は自室へ戻り、休んだ。

ぼーっとしていると、嫁さんが来た。

そして言った

「ごめんなさい、貴方を連れて帰れない」

取り合えず、聞こう。

「そう・・・理由は?」

彼女は暗い顔で言った

「貴方の状態が悪いからよ、鬱病の底に居る状態で医師として許可出来ないみたい」

「そして薬が効いてないの、今日の一件で確定したと」

「だから、隔離病棟へ戻ってやり直しなの」

残念だった、悪いニュースだ、疲れた。

「そう…」としか言えなかった。

彼女は悲しそうに言った

「ごめんなさい、具体的な説明は後日医者からされるわ」

「今日はこの後移動よ」

その後、僕は隔離病棟へ移動した。


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未だにあの先生には複雑な気持ちです。

あの時の僕は正常だったのか、異常だったのか

今となっては分かりません。書いていて疑問なんですよね。

普通そんな事で怒るのだろうかと。


ここで先にネタばらしなのですが、僕は計3回隔離病棟へ戻ります。

結局合計すると、僕は病院に6か月程居ました。

6か月の間に1回や…wwwと前向きに考えてます。


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