第15話:ドイツで多重人格者と会う

オープンステーションの日常は学校生活と似ている。

自分が取るべき単位をカウンセラーがピックし

それを受ける。

空いてる時間は自由に使い

決まった時間にご飯を食べて

8時以降は好きに過ごす。

そして消灯時間の10時に寝る。

毎日がこの様に進む。

まさに寮生活。

共同生活となると、相性もあり、他人から避けられる子もいた。


彼の名は、ヒューバード

多重人格者だと言っていた。

彼曰く性格が2つあるらしく、

一人目は、歯止めの効かない人

二人目は、正直言って分からない、話した事がない。


彼のメインは一人目である、歯止めの効かない子だ。

常に人に話しかけ、人に自分をアピールしたり、他人より食べたり

歌いだしたり、急に泣き出したり。

他人より悪い意味で目が付く人、そんな人だ。

他人と距離間を詰めるのが下手くそだ。

0と1、そんな距離感だ。0.5がない。

当然周りは彼を避ける様になる。

煙たがる人、敵意を出す人、適当にあしらう人。

みんな問題を抱えているから、余計だと思う。


彼のエピソードをいくつか言うと

ある日の夜。

夜中、彼は突然大音量で音楽を流しならが、

全裸で

「Party Night!!!!」

と叫びながら踊りだしたそうだ。

当然ルームメイト達はドン引きと激怒。

看護師と医者が突撃し、投薬をし、沈静化した。

それ以降、彼はルームメイトから一歩引かれる様になった。


ある時は

オープンステーションの女性に言い寄る。

その女性は彼を快く思っていないのだが、

彼はそれに気が付いていないのか、

延々と話しかける。

彼氏の有無、僕が君が好きだ

そんな事を言ったそうだ。

当然、その女性は看護師に報告。

その後彼は医者からカウンセリングを受け

投薬内容の見直しとなった。


僕と彼の関わりはルームメイトになった時に始まった。

病室へ入ると、彼は満面の笑みで、僕に宜しくと言った。

宜しく、と返し僕は音楽を聴いていた。

彼はまた話しかけてきた。

「ねぇ」

僕はヘッドフォンを外し、彼に応えた

「ん?」

間髪入れず彼は早口に言った

「良いヘッドフォンだね、詳しく教えてよ」

ヘッドフォンに興味を持つなんて珍しいなと思い答えた

「ゼンハイザーのHD598だよ」

彼は何を思ったのか、こう言った

「君の使っているヘッドフォンを売ってくれ」と言った

驚いたし、変だなと思った。他人の使ったヘッドフォンを買う奴が存在するのかと

「悪いが売る気はないんだ、お気に入りなんだ」

彼は納得していなかったが、僕にとって初めては「変な人」だった。


多重人格者は独立した人格を持っているのかと思ったエピソードがある。

病室のバスルームに置いてある物だ。

例えば、シャンプーが二つあるんだ。

歯ブラシも

ボディーソープも

スキンクリームも

ヘアジェルも

全て二つずつあった。

それを見た時、これが多重人格者なのか

と納得してしまった。


ある日の事だ。

彼は隔離病棟への戻る事になった。

理由は、他の患者からのクレームが原因だそうだ。

彼に対する周りの評価は最悪だ。

看護師もその事を知っているが、どうする事も出来ない。

こればかりは本人の性格、病気だから、投薬して治る訳では無い様だ。

彼も居心地が悪かっただろう。

他人から話しかけられない、周りから腫物扱い。

話をすると、他人から嫌がられる。

一度抱いた印象を変えるのは難しい。

その後、彼は隔離病棟へ異動し、彼の事を聞くことは無かった。


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距離感って大事だなって思った体験でした。

ドイツの病院でも色んな人が居ますが、彼程衝撃が強かった人は居ませんでした。

彼と他の患者とのもめ事はまだあるのですが、あまり書いていても、

良い思いではないのでちょっと少な目です。


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