福井県嶺南に位置する、美浜町

 私が最初に訪れた地、福井県美浜町。飛行機で小松空港まで行き、そこから列車で向かいました。

 人生で初めて、自分のみの判断で行動しました。

 最初はその土地がどういう場所なんだろうという不安、並びに交通機関を正しく使えるのかという不安がありました。私は幼少の頃から、誰かの後ろについて歩く人間で、自分の力で動くということが本当に苦手です。それ故に私は、自分から行動することに逃げる癖があります。それは今でも変わりません。旅行しなくなった今では、その悪癖が再び顔を出してすらいるのです。

 さて、この美浜町を選んだ理由ですが、あまりにも小さな理由で「なにそれ」と思われるでしょう。というのも、「福井県の南の方はやけに細いから、気になる。なんか行ってみたい」という、県の形状の視覚的特徴が理由なのです。これは、しょうもないと言ってしかるべきです。特にその土地の景勝地などに関心があったわけでもなければ、福井県に思い入れがあったわけでもありません。

 ただ、偶然がありました。

「中二病でも恋がしたい!」という京アニの作品をご存知の方も多くいらっしゃるでしょう。私はその作品の熱狂的なファンであり、何度も何度も繰り返し見ては、六花と富樫の掛け合いに感服してしまいます。今も。

 美浜町は、偶然にも「中二病でも恋がしたい!」の聖地の一つだったのです。これはまったく予期せぬ偶然で、どこか運命のようなものを感じたことを覚えています。

 


 敦賀駅から、小浜線に乗って美浜駅まで向かう途中、東美浜駅という駅があります。そこは「中二病でも恋がしたい!」の代表的な聖地なのですが(後日ここを訪れますが、福井県入りしたこの日は美浜駅近くの宿で過ごしました。台風が来ためです……)、東美浜駅に至るまでの車窓で印象的だったのは、緑に囲まれた森林が続いているかと思った次の瞬間、ぱっと視界が広がって田園やぽつぽつと点在する民家が現れたことです。

 これだけのことなら、大したことはありません。珍しいものではないからです。しかし、初めて、自分一人の肉体が、大好きなアニメの聖地を通過しようとする、その前段階において、ちょっとした些細な風景の変化はやたらと高揚感をもたらしました。この気持ちは、一番初めの一人旅の、始まりでしか、味わえないのではないかと思います。


 ちなみに私は、小松駅でご当地アイドルと一緒に、人生初のチェキを撮りました。普通ならこの体験のほうが圧倒的に印象に残るはずですが、やはり、目的の地である美浜町へ入った瞬間の車窓のほうが、心の奥深くにある感動を呼び起こしたのです。


 しかし、さらに心から感動できた景色がありました。

 それは、美浜駅で降りて、駅を出た時です。

 あまりにも些細な光景は、しかし、自分にとっては非常に特別な感情を、一瞬のうちに与えてくれました。

 山が、見えたのです。堂々たる山が。

 標高はそれほど高くないような気がしましたが、割と近くにそびえていたために、大きく見えたのだと思います。しかし、それは単なる物理的な見え方に過ぎません。


 私はその山の写真すら撮っていませんが、心(頭)に焼き付いて離れません。人生で初めて「独力で」降り立った地で、その堂々たる山が、私を「ようこそ、よく一人で来られたね。ご褒美に素晴らしい景観を君に」と仰っているように、映ったのです。私は、思わず「うわー」と息を漏らしてしまいました。そんな些細な感動詞すらも覚えているのですから、これは人生においても、五本の指に入る(というよりも、一位ではないかと思えるほどの)、心の奥の最も深きところからの、感動だったのです。


 珍しい景観でもなければ、大人気の土地でもない。しかし、初めて未開の地に踏み込んだ私にとって、それらは信じられないほどに特別でした。


 

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