第35話

 サバイバル演習も残すところ二日。最終日の七日目は午前で終わるため、実質あと一日だ。各チームの動きもそれを意識したものとなる。

 生き残るために守りを固める者。最後の攻勢に出る者。様々なスタンスのチームがいるが、ここにきて諦めるような弱者は誰一人としていない。少しでも長く生き残り、一人でも多く打ち破る。医療科、戦闘科の区別なく、誰もがその胸に闘志を燃やしていた。

「桔梗まじでやんの?俺眠いんだけど」

「狙った獲物を掻っ攫われるなんて、冗談もいいとこよ」

 午前五時。

 まだ空は薄暗く、空気もピリリと肌を刺す寒さの中。既に身支度を済ませた男女が話し合っている。

「こっちは一人欠けてるんだぜ?追うにしても、他チームを漁夫った方がリスクが低い」

「関係無いわ。富田はともかく、私さえいれば勝てるもの」

 彼女、高槻桔梗率いるこのチームも、例に漏れず当初は三人一組のチームだった。しかし、この場にいるのはリーダーたる桔梗と、この富田という男性だけだ。

 もう一人いた筈のチームメイトは、倒した敵チームの食べかけの食事を、拾い食いして当たるという悲劇により、惜しくもリタイアしている。

 これには、他人に無頓着な桔梗でさえ呆れていた。

「大した自信だねぇ」

 彼はそうボヤきつつ、顎の無精髭を引っこ抜く。ふと、リタイアした彼の去り際の台詞、「あいる、びー、ぱっく……」を思い出し、思わず笑いそうになった。唇を噛み締めると、髭がチクチクと痛い。

(そういや髭剃り忘れたわ……)

 隣の桔梗を見た。流石に化粧まではしてないだろうが、その肌は荒れても無いし、ニキビもない。お手入れバッチリの様子に、彼は思わず溜息を吐いた。

「前も言ったけど、別にそこまでおめかしせんでもよくねぇか?デートじゃあるめぇし」

「気持ち悪いこと言わないで。性根が腐るわ」

「そりゃ元々だろーーうべしっ!」

「あらやだ。喋る生ゴミ」

「酷すぎると思う」

 後頭部からダイブトゥアースして応える彼に、桔梗は一瞥もせず歩き出す。置き去りにすることなどお構いなしだった。

「ちょっ、待って!」

 慌ててバックパックを背負い直して追いかける。本人達の認識はともかく、その様は仲睦まじい兄弟のようである。

 恋人のようには……見えないな。

「富田、早く探しなさい。六時間しか待つ気はないわ」

「意外と待つな!」

「うるさい早く」

「……へいへいお嬢。おおせのてーり」

 富田がぐっと眉間を親指で揉み、息を吐く。そして大きく息を吸いーー一気に吐き出した。

「あぁぁぁぁぁぁあああぁぁあああぁぁぁぁあ!!!」

 甲高い叫び声が、森の静寂を蹂躙していく。そして。

「…………見つけた。こんな時間にこのスピードの三人組、間違いない」

 探すは夜襲を仕掛けた犯人。彼らを見つけた(聞こえた)のも、寝ずの番をしていた富田である。

「行くわよ。絶対にーー獲る!」

 決意を新たに、二人揃って走り出す。

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