第27話

 彼女の顔は穏やかだった。怖がることはない、心配いらないよ、と優しくささやく園長先生みたいな表情。

 ドクン……ドクン……と、ゆっくり大きく、鼓動が全身に響く。

 誤魔化す選択肢は浮かばない。

 演習開始から今までの記憶が駆け巡る。寝食を共にし、脅威を乗り越え、笑い合い、そして助け合った戦友。

 そんな彼女らを騙し続けることが、斎藤には酷く後ろめたかった。

 本当のことを言いたい。逡巡は一瞬だった。

「真木さん、その……」

 俺、本当はーー

「さっきの治療も見てたけど、本当はあれ、縫合すればよかったよね」

「あっ、は、はい……」

 思ったよりも黙り込んでいたのか、真木が話し始めてしまう。梯子を外された形の彼だったが、伝えることは変わらないと、相槌を打つ。

「ずっと気になってたんだ。何でそんなに、無理して頑張ってるんだろうって」

「それはーー」

 自分が男だからーー。そう答えようとした彼に先んじて、真木が言葉を投げる。

「斎ちゃん。縫合が使えないこと、気にしてたんでしょ?」

「えっ、あっ……」

 あれ、そっち?と反応しきれない斎藤に、慈愛の目を向けながら真木は続ける。

「医療科にも知り合いがいてね。教えてもらってんだ。医療術師って、大きく三つの術式をマスターするのが必須条件だってそれが浄化、活性、そしてーー縫合」

 真剣に語りかけてくれる真木には悪いが、こう、想定してたカミングアウトとのギャップで脳が思考停止してる。

「でも斎ちゃんは、縫合が使えない……。だからあんなに、焦って無理してたんじゃないかな。違う?」

「えっ、あっ、ち違わないです」

 確かにそれもある。能力が一人前じゃない分、努力でカバーしないとって焦ってた部分も大きい。こぉのすれ違いどうしたらいいんでしょう。

「私達はチームだからさ。一人じゃなくて、みんなで助け合おうよ。ね?」

「は、はい!」

「いい返事だっ。じゃ、行こっか」

「はいっ」

 言われるがまま返事をしてついていく。結局、伝えれぬまま話が終わってしまった。こんなにモヤモヤするとは……。もしやこれが…………恋?


 一人心の中でアホズラ引っ提げる斎藤に突っ込む人は、誰一人としていない。

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