第22話
周囲を警戒しながらの移動は未だ慣れず、疎かになる意識を互いにフォローし合いながら進んでいく。昨日とは別の周回拠点に、足元が安定しない。だが、生き残る為の最善手だと信じて足を動かす。背負った荷物が膝を蝕むが、男の意地として止まるわけにはいかない。
折り返し、一時休憩に定めた切り株の前に来た。ようやく一息つける。そう安堵した次の瞬間だった。
「斎ちゃん避けて!」
鋭い声と共に、何かに弾き飛ばされる。真横からの衝撃と走る慣性が合わさり、斜め前方に身体が流される。
「ぐふっ!」
息が止まる。受け身もロクに取れず、衝撃が内臓を揺さぶる。辛うじて突いた右掌が熱い。感じからして、肘も擦りむいているだろう。軽傷ではあるが、怪我に慣れてない彼には辛い。
だがその痛みに喘ぐ暇は無かった。
ゾクリと強烈な寒気。
「だぁぁ!」
突いた右腕を起点に身体を起こし、引き寄せた足で地面を蹴る。生存本能に従い、雑草生い茂る前方に向けて身体を投げ出す。
ドゥッッ
地面が爆ぜる。土塊が周囲に飛び散り、衝撃が背中を押した。
間一髪、直撃は避けれたが、このまま追撃を受ければどうなるかわからない。
「んぐぅぁっ」
新たに擦りむいた膝に喝を入れ、足で地面を捉える。立ち上がるのは危険だ。的が大きくなる。
「大丈夫!?斎ちゃん」
「ハイッ!」
真木の声がする。掠れた声で応えるも、あちらも余裕はなさそう。
(奇襲された……っ!)
空気が弾ける音、硬いもの同士がぶつかる音。それらが断続的に鼓膜を震わす。
(最初に狙われたのは俺か……。回復役から潰そうなんて、大胆な)
ルール上は、医療科だろうと攻撃の対象になる。だが、この演習では殺人は禁じられている。戦闘科とは違い、頑丈でない医療科生を狙うのはリスクも高いのだ。
(今は隠れるしかない……)
戦闘に参加しようにも、そもそも攻撃魔術は使えない。それに距離もある。治療も当然できない。
(歯痒い……)
だが、そこでへこたれてちゃ男が廃る。今出来ることを必死に考えろ。
雑草の茂みを掻き分け、真木と雪村の現状を確認する。
(分は悪そうだな……)
敵は広範囲をまとめて押し潰すように拡圧で攻撃してくる。加速など自己強化の術式も並列起動しているのだろう。真木が後手のまま巻き返せない。
雪村の方は拮抗しているようだ。拳と拳の殴り合いという様相で、壮絶なインファイトを繰り広げている。敵チームの医療科は、隠れているのか見えない。厄介だ……。
「逃げるしかない」
この近辺の地図を脳内に描く。この辺りには小さくも滝があったはず。そこに行けば、高低差で向こうもあまり深追いはしてこない筈。ルートは……。
「真木さん今です!」
わざと気を引くように大声と足音を立てて走り出す。そしてこれ見よがしに親指を下に向け、笑って見せた。
「こっちだ!」
一気に体感温度が下がる。一瞬ではあるが、確かに敵の気を引いた。真木が足元の衝撃波で土煙を立たせる。視界が悪くなるが、それには構わない。
雪村もわざと殴られ、その勢いを利用して斎藤に向かっていく。
挑発のハンドサイン。だが真木隊にとっては違う意味になる。
(逆……っ!)
斎藤の進行方向と真逆。それが逃げるルートの最適手。
「舌噛まないでよっ!」
またも逆ベクトルの力で内臓を圧迫されながら、背中を引っ張られる。真木と雪村二人にお腹を押され、朝ご飯が出てしまいそうになる。
(我慢……我慢!)
追撃の衝撃波が顔を掠めるが、それで止まることはない。ジグザグと草を掻き分け、木を蹴って空中飛び抜け、そしてーー
「正気!?」
「行くしかない!」
滝壺へ向けて飛び降りていく。落下の衝撃に備え、目をギュッと瞑ることしかできなかった。
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