第18話

 昼頃になると、あちこちで聞こえていた戦闘音も聞こえなくなっていた。現実の戦場では有り得ない状況だが、一斉に昼休憩に入ったらしい。

「どこもお昼は食べたいみたいだね」

「年頃ですし。ご飯は大事です」

「あくまで演習だからねぇ。暗黙の了解ってやつだけど、どこも休んでるよ」

 索敵のために木に登っていた真木が降ってくる。暑そうに顔を扇ぐその姿は余裕そうだが、彼は気づいていた。着地の際、膝を曲げた拍子に一歩足が出たのに。

「疲れたでしょ。私らもお昼にしよ」

「なんで私には言ってくれないんです?」

「いや雪ちゃんは体力おばけだし」

「ちゃんと足あります!」

「え、そっち?」

 じゃれ合う彼女らの声を聞きながら、食事の用意を進める。現代のレーションはかなりの進化を遂げ、従来通りの加熱要らずに水要らず、長期保存可能という戦場で求められる条件をクリアしつつ、味もそれなりで高カロリーという、便利極まりない代物になっている。

 そのまま食べても確かに美味しいのだが、しかしレーションはどこまでいってもそれなり止まり。食事の用意をする程度には余裕のある環境では、それなりに手を加えて、更に美味しく戴こうという平和な発想が生まれた。

 大戦時のような、食べれりゃ蛆でも人でも食う環境は、今の時代ではほぼ無いと言っていいだろう。全くとは、言い切れないが。

「やっぱどこも一緒か……。ま、それこそ腕の見せ所?」

 腕まくりしつつ、缶詰を開封。白い指に飛び散った汁は茶色く輝く。カレーだ。

「鍋なべナベ〜」

 取り出した鍋を浄化し、ガスバーナーにかける。中にカレーを投入し、雪村が持ってきていたバターを入れ、かき混ぜる。火力を調整しつつ焦げないよう温めたら、各自の名前が入った丼に分けていく。気持ち、二人の方が多くなるようにした。

(真木さんも、顔には出さないけど疲れてる)

 指示出しから周囲の警戒、戦闘まで、多くのことをこなしている彼女だが、表に出さないだけでかなり張り詰めている。そんな彼女を、医療科として支えたい。癒したい。

「できましたよ〜」

 いつの間にか座ってあっち向いてホイしてた二人を呼び、手を合わせる。

「「「いただきます」」」

 戦いはまだ続くけど、だからこそこの瞬間を大事にしようと、心に決めた斎藤だった。

「ちょっと焦げてるよこれ」

「やっぱり?」

 バター入れるの先だったわ。

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