第15話

 二日目はひたすら遊ぶことに時間を費やした。

 最初はぎこちない様子だった斎藤も、煽られ煽られ、褒められては煽られるという振り回されっぱなしな時間を送る中で、徐々にその表情に笑顔が見え始めていた。

 そんな彼の変化を一番喜んでいたのが、このレクリエーションを企画した真木だった。

(自分から壁を作ってたからなぁ……。しかもそれを隠そうともしてたし)

 最初に挨拶をしたり、話しかけた段階では、ただ緊張してるだけだと思っていた。だが見ていると、どうも不用意に触れられないよう、一定の距離を置いて接しているように見えた。

「さて。そろそろ夕飯の支度をしないとね」

 声をかけると、枝にぶら下がってジャンケンしていた二人が顔を見合わせ、そして空を見上げた。

「もうこんな時間……」

「夢中になってましたね」

 軽い身のこなしでクルッと着地した雪村に続き、斎藤も降りようとする。

「無理しないでよ〜」

「大丈夫です」

 応えつつ、軽々と地面に着地してみせる。医療科の子は、そのほとんどが運動が得意ではないから心配していた。でも今日見ている限りでは、人並み以上に動けるようだ。

「さて。今日は何作ろうかな」

「カレーはどうですか?」

「定番だけど、準備が大変なんよねぇ」

 斎藤にそう返しつつ、真木はフライパンと食材を取り出す。

「ってもう作り始めてるじゃないですか」

「聞いてる間に決まっちゃった♪」

「おうぼうだー」

 油を引いたフライパンに食材を放り込んでいく彼女に文句を言いつつ、寝床の準備に取りかかる二人。真木はそれを横目に眺めながら、フライパンを振るう。発熱魔術でフライパンを熱しつつも、その手は淀みない。

「ふぅ……」

 そんな彼女に背を向けて、斎藤も一息吐く。

 さっきまで身体を動かしていたからか、吐く息も熱っぽい。ふと手を見下ろすと、土で汚れ、いかにも雑菌塗れだ。

「浄化ーー」

 いつも清潔なままでいなければならないという医療科の教えを思い出し、自分の体表面に浄化をかける。すると土や汗がさっぱりと消え去り、服の土汚れも抜け落ちていた。

「ふぅ……」

 魔術が発動したことに安堵息を吐き、手の甲に刻まれた刻印を見つめる。

「こんな格好しなくても……」

 そう思いはするものの、ままならない理解不能な現実に、乾いた笑いしか出ない。

 ふと、自分の格好を振り返ると同時、先程までのはしゃいだ時間を思い出した。

「あっ」

 す、すっかり忘れてタァぁぁぁ!

 真木にまんまと乗せられ、ナイフ投げから腕相撲から遊びに興じてしまったが、彼女達には自分の性別を隠しているのだった!

「うわぁぁああぁ」

 身体に触れたり、触れられたり、スカートも気にせずぶら下がったり(中にはスパッツ装備)していたのだ。異性と接しているという意識がすっぽり欠落していた。

(なまじっか二人とも俺より強いから……)

 男としての意地というか負けず嫌い根性というか、そんなのが発動してすっかり夢中になっていた。

「ば、バレてないよね?」

 小声で自問するも、その答えは彼女達しか知らない。何も言われてないのを救いとして、このまま隠し通すしかない。

「斎ちゃんちっと手伝って〜」

「あっ、はい!」

 真木の声に返事しつつ、頬をギュッと掴んで気合を入れる少年であった。

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