第14話

 演習では事故がつきものとはいえ、教員もただ「行ってこーい」と背中を蹴り飛ばすだけが仕事ではない。

「どう?怪我人は無し?」

「あぁ。ま、こんな序盤でヘマするのは流石にいないだろ」

 同僚の女性にそう返しつつ、カラコロとグラスを鳴らす。戦闘科の教員でも古株である彼にとって、この演習は“遊び”でしかない。今後彼らが、これ以上の地獄を見ると知っているからだ。

「どこも一人は医療科がいるし、多少の怪我、あってもいいのだけど」

「ま、今だけだ。二日経ちゃ忙しくなる」

 戦闘が始まれば、怪我の数も規模も大きくなる。そして教員の仕事もーー生徒を死なせないという最重要任務も、忙しくなる。

「強くなれよ、子供たち」

 グイッとグラスの中身を飲み干し、喉の熱さにブルリと身を震わせた。



 サバイバル二日目。

「今日は遊ぶぞ」

「は?」

「はいっ!」

 寝ぼけた耳に届いたその言葉は、演習中とは思えないものだった。聞き間違いかと首を傾げる彼の隣で、雪村が元気に返事をした。

「聞こえなかった?遊ぶんだよ。今から。三人で」

「……正気か?」

 少女とは思えない(実際少女ではないのだが)ジトォっとした目で自分を見つめる斎藤に、真木は噴き出しながらも答えた。

「魔術を使える私達にとって、ただ生き抜くだけなら造作も無い。でもこの演習はそれだけじゃない。チームで戦うためには、やはり相互理解が必要なんだよ」

「いや確かにそうだけど……」

「何します?」

 飲み込みきれない斎藤を置いて、女子二人がワイワイと相談し出した。ガールズトークに弾き出された彼(見た目彼女)は、その様を所在無さげに見つめるしかない。

 やがて、結論を出した二人が斎藤を呼ぶ。

「決まったよ。今日はナイフ投げだ」

「物騒だな!」

「楽しいですよ?」

 腰についたポーチから手頃なナイフを取り出す雪村。おっとりとした物腰に反して、手の中でくるくると弄ぶ様は、こう言ってはなんだが怖い。

「ほい。医療科だってメス握るでしょ?似たようなもんだって」

「いやあの、それは似て非なるもので……」

「的はあれね!」

「聞いて!ねぇ聞いて!?」

 やけに一方通行な会話にキレかけながらも、手を引かれるままに立ち上がる。指差す向こうには、雪村が拳を振り絞る姿。

「せいっ」

 バキャッ

 太く立派な木の表面に、大きな円形の窪みが出来ていた。戦闘科はゴリラの集まりだったらしい。

「あの窪みに当たったら成功。外れたら失敗。10回勝負だよ」

「よく戦闘科でやってるんですか?」

「はい。息抜きにちょこっと」

「……俺の知ってる息抜きと違う」

「え?」

「いやっ、なんでも!」

 真木の視線から逃れるように的の方を向き、いつの間にか持たされていたナイフ(怖い)を、勢い任せにぶん投げた。

 ナイフ投げというものは、アニメや漫画のように、直線で飛んでいくわけではない。回転しながら、ブーメランのように弧を描いて飛んでいくものだ。

「あっ」

 ビュンッ!と勢い良く飛んでいく彼のイメージとは裏腹に、ナイフは的へ届くこともなく、ボトリと地面に落ちた。

「ヘタクソ〜」

 真木の楽しそうな煽りに、顔を赤くする斎藤。そんな様子を眺めながら、雪村はホッと、安心したような吐息をついた。

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