第13話

 演習が始まり、一日目が終わろうとしている。

「夜になった途端に冷え込んだねぇ」

 雪村のゆったりとした声が、焚き火の爆ぜる音に混じる。木々は強引に薙ぎ払われ、いくつか根っこごと横倒しになっている。どれも真木と雪村がやったことだ。斎ちゃんは離れたところで見てた。危ないからね。

「毛布足りるか?」

 沸かしただけのただのお湯を啜る斎藤に、真木が心配そうに聞く。ちなみに彼女は毛布なんて使わず、振動魔術で自分の表面温度を上げている。

「大丈夫です」

 女の子が自分より薄着で、平気そうにしてるのに弱音は吐けない。これでも中身は男である。

「それよりも、これからのことを考えないと」

 物資は限られており、食料は当然足りないため、現地調達もしなければならない。薬草についてはある程度知識はあるが、それ以外で食用となると、彼にもわからないものの方が多い。

「食べられる野草、かぁ」

「え、草食べんの?」

 彼の呟きを拾い、真木が驚いた顔をした。いや、そんなに意外かな。経験者でしょ?先輩。

「食べるものがなければ、そうなるのかなって」

「去年はどうだったんですか?」

 雪村が訊ねる。

「簡単さ。他のチームから奪ってた」

「うわっ、怖っ」

「略奪有りなんですかぁ?」

「むしろそれが普通だよ。だからこそのサバイバル演習だし」

 文字通り生き残りを賭けた演習なのだと強調され、彼は気が更に重くなった。

 一方、雪村は納得した顔で頷いていた。見た目で騙されたわけではないが、彼女も戦闘科なんだと思い知らされる。

「となったら、相手の倒し方も考えないといけないですね」

「あぁ。略奪品を壊してしまえば、それだけ旨味が無くなるからね」

 海賊みたいなトークに花を咲かせる二人から目を背け、先程言えなかった懸念について考え出す。

 トイレと着替え、どうしよう……。

 少年の胸中は、とても揺らいでいた。

 まず、この二人のあられもない姿を見てしまう可能性。これはもうラッキースケベだと割り切って素数を数えるしかない。別に素数でなくてもいいのだが。

 しかし見られる可能性は、素数をいくら数えようと無意味だ。彼が男だとバレでもしたら、それはもう、考えるだけでも面白そうな展開になりそうなのだがーー当の本人はそれが嫌らしく、必死で隠し通す方法を考えている。

 明石がここにいたら、絶好のタイミングでバラそうと、ワクワクで眠ることも忘れそうだ。

 寝袋の中で悶々とする中、焚き火が消え、二人の会話も自然と終わった。

「おやすみー」

「おやすみなさい」

「おやすみ、です」

 寝床につく彼女らの声に返事をしたものの、どうも目が冴えて寝れなかった。

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