第12話

 二人の後をついて走りながら、斎藤は一人、後悔していた。

「こんな格好してたって……」

 自分は男だ。それに、これでも医療を学ぶものとして、指示を仰ぐばかりではいられない。

「しっかりしろ、俺……」

 小さく喝を入れ、顔を上げる。もう、演習は始まっている。お荷物になるわけにはいかない。戦闘科の二人に置いてかれないよう、必死に走る。この演習で彼女達を守るのは自分なんだと、心に言い聞かせながら。




 適材適所というものがこの世にはあって、特に魔術においてはそれが顕著だ。武者の刻印が医療魔術を扱うには向いておらず、聖者の刻印に戦闘魔術は向いてない。

 武者の刻印は一撃の重さが重要のため、一度に扱える魔力量が、聖者に比べて段違いなのだ。

 一方、聖者に求められる治療は、繊細なコントロールと持久力が求められる。瞬間的な出力が低い代わりに、扱いやすいものとなっている。

「ここらで一度休もうか」

 先頭を走っていた真木が、その短めの髪を揺らして振り向く。最後尾で追いつくのに必死だった医療科の後輩を見遣り、無理は禁物だと判断した。

「ちょっと足場悪いね。軽く均すよ」

 真木はそう言うと、足に魔術を展開した。そしてその足を、草と根っこで凸凹の地面に叩きつけた。

 ズンっ!

 と、鈍い音と共に押し潰されていく草木。医療科では見慣れないその魔術に驚きながらも、疲れでそこにエネルギーが渡らない。こんなことなら普段から運動しとくんだったと嘆く少年であるが、後の祭りである。

「それ『拡圧』ですよね。こんな使い方あるんだぁ」

 雪村の感心した声に、少しだけ自信を取り戻しつつ、真木が答える。

「そっ。対人じゃ威力が上がるわけでもないから使い道ないんだけど、こういうとき便利なんだ」

 戦闘科の魔法はからっきしの斎ちゃんは、首を傾げたまま何となく凄いんだろうな〜で流していた。医療科が戦闘科の魔術を学ぶのは、この演習が終わってからだ。まず経験してこいというスタンスらしい。

「拡圧っていうのはねーー」

 彼が理解してないことを察した雪村が、刻印を光らせながら説明してくれた。

 拡圧とは、圧力面積を拡大する魔術らしい。物理法則通りなら、拡大した範囲に応じて圧力が下がるのが一般的だが、この魔術はそれを無視し、一定範囲内に同じ圧力をかけるというものだ。

「同時展開するにはちょっと難しい術式だから、あんまり戦闘では使わないらしいけどね」

「ふぅーん。便利そうなんだけどなぁ」

 聖者にも使えないだろうかと、顎を人差し指の上に乗せて考え出した彼を置いて、真木は端末を操作する。配布されたというPDFを見ているのだろう。

 各々がそれぞれのことをやり出す様子を眺めながら、これからに不安と、少しの期待を含ませて、雪村は苦笑いを浮かべた。

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