第11話
正直、浮かれていた。
小学生のときに行った林間学校と同じノリでいた彼らは、しかし早々にその認識を改める必要があった。
「整列!」
教員の鋭い声に従い、景色を楽しむ暇もなく並ばせられる。体格の良い、軍服姿の大男がこちらを睨め回す。自然と背筋が伸びる。
「これより、第九十五回、秋季サバイバル演習を開始する。これから行う説明をよく聞くよう。メモを取ることは許さん。聞いて覚えろ!」
このときはまだ、ずいぶん体育会系だなと呑気に思っていた。だが、斎藤は忘れていた。これが、正真正銘の、軍事演習だということを。
「まず、武器の使用は自由だ。持参したもの以外にも、別グループから強奪したものも使用可だ」
ん?と少年の頭に疑問符が浮かぶ。ちょっと待って?強奪?
「そしてルールだが、まず猶予期間として二日間を設定した、この間は他チームへの攻撃は禁止する。拠点の探索やチーム内の交流が主な活動となるだろう」
少年の背中を、ダラダラと冷や汗が流れていく。肌着が張り付き、ひんやりと冷たくなってきた。真木がそんな斎ちゃんを見て、気遣わしげに横顔を覗く。
「大丈夫?」
「う、うぃ」
優しく囁かれて、彼の背中を一瞬、ぞぉっとこそばゆさが駆け巡る。高まる緊張感に追いつけない心と裏腹に、体が周囲の状況に敏感になっていた。
「詳しくは、この後配布するPDFに書かれている。よく読んでおくように。では、解散!」
号令と同時に、いくつかのグループが走り出す。事前に演習の趣旨を理解していた者達だ。斎藤、真木、雪村の三人は顔を見合わせる。この中では真木が一番のベテランだ。必然、彼女に縋るような目が向く。
それを受け止めて、この演習が始まってからずっと燻っていた不安を、気力で握り潰す。真木の目に、力が宿る。
「まずは落ち着ける場所を確保しよう。幸い、あと二日は猶予がある」
頷く二人を連れ、山の中へ向けて走り出す。
※※※
二人の後をついて走りながら、斎藤は一人、後悔していた。
「こんな格好してたって……」
自分は男だ。それに、これでも医療を学ぶものとして、指示を仰ぐばかりではいられない。
「しっかりしろ、俺……」
小さく喝を入れ、顔を上げる。もう、演習は始まっている。お荷物になるわけにはいかない。戦闘科の二人に置いてかれないよう、必死に走る。この演習で彼女達を守るのは自分なんだと、心に言い聞かせながら。
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