第7話
「じゃ、まずは何するか決めないとね」
そう言ってホワイトボードに向かい、いつものニヤケ顔を貼り付けて少年を見下ろす明石。楽しげなその様子に、少年の不安は募る。
「まず初歩的なとこから確認してこうか」
ボードに『浄化』と書かれ、その横に大きな括弧が現れる。
「斎ちゃんが使えた魔術は『浄化』と『細胞活性』。これを使うのに必要なのは……」
「対象の選択、だろ?」
「それだけ?」
「後は……魔力操作?」
「その通り〜ぱちぱち〜」
彼女の気のない拍手にイラッときたが堪え、話を続けるよう促す斎ちゃん。
「魔力操作が正直鬼門かなーって思ってたけど、案外すんなり出来てたね」
「色々助けてもらったからな……」
斎藤少年はこの学校に来てから、魔術が使えないからといって差別を受けたことはない。努力が足りないと叱責されることはたまにあったが、それでも彼が魔術を発動出来るよう、教師だけでなくクラスメイトまで、手を変え品を変え、様々な方法を教えてくれた。
「あの時も魔力循環は出来たんでしょ?その時何回ぐらいチャレンジした?」
「はっきり覚えてはないが……八回はやった」
「意外と少ないね。てっきり二十ぐらいはやってると思ったよ」
脳内のイメージを切り替えるだけではあるが、時間は無慈悲に進んでいく。本当に幸運だったと、彼は頬を緩めた。
「たまたま当たりを引いたんだ。それでも結構苦戦したぞ?理想は一発」
「もう出来たことなぞるんだから、毎回そんな回数やらんでよろしい」
確かにそうだと、浮いていた腰を落とす。
「私も見てたけど、魔力操作は申し分ない。普通ぐらいだね」
「微妙な褒め方やめい」
「合格点なんだからいいでしょ。それに医療魔術で大事なのって、魔術の技量じゃなくて使い方。じゃなきゃ解剖学なんてやんないって」
「確かにそうだが……」
魔術の技量もあってこそ生きるものではないだろうか?と納得がいかない様子の少年に、明石はボード新たに文字を加えていく。
「いくら魔術って言ったって、ゲームみたいにパッとやったらHPが回復!なんて単純じゃない。ちゃーんと『どこをどのように治すのか』を見極める必要があるんだ」
「それぐらいはわかってる。魔術は所詮ツールだって」
魔術で出来るのは、与えられたプログラムを実行することだけ。すり傷一つとっても、治すには浄化、細胞活性を行う必要がある。浄化も除去する対象、範囲を決めねばならないし、細胞活性も、活性に必要な要素をいくつか満たさねばならない。
「私たちは病気についてはまだ本格的にやってないけど、内科治療に関しては、術式の定義づけがもうめんどくさいらしいよ」
「内科治療はまだ医科学のが主流だしな」
魔術が苦手な分野というのもある。それが、こういう定義づけに困るものだ。
「ま、その辺はおいおい。今の斎ちゃんにはまだ早いし」
「じゃあなんで話したん?」
「私が話したいからに決まってんじゃーん」
「時間ないって言ってなかった!?」
そんな少年の叫びでようやく思い出したかのように「あ、そうだった」と呟き、彼女は声高に言った。
「じゃー今から魔力循環の練習しよっか」
「だからさっきまでの会話なんだったん!?」
結局、魔術の技量向上に向けての訓練が始まったのだった。
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