バレンタインデー

シュタ・カリーナ

日常の続きか、ラブコメの始まりか

 皆んなは誰からバレンタインチョコをもらっただろうか。

 僕は今までに母親からしかもらったことがない。女友達もいないため義理すらない。悲しい。


 そう今日は世の男子どもがチョコを求めるバレンタインデー。ある者は嘆き悲しみ、ある者は喜ぶ天国と地獄の日。


 最近なにかと、義理チョコを廃止しろだとか抗議している人がいるがそういう奴らはおそらく本命チョコをもらっている。だからこそそんなことが言えるのだろう。考えてみろ。本命がもらえなかった時に義理チョコをもらった時の嬉しさを。貰ったことないから知らんけど。その気持ちを知らないから廃止しろと言えるのだ。

 閑話休題。


 僕にとって高校に入って初めてのバレンタインデーだがおそらく、いや確実に義理チョコも貰えないだろう。義理以前に女友達がいないのだから当たり前だ。


 今日の学校はいつもより騒がしい。「俺のチョコはどこだー!」「絶対どこかにあるはずだ!」「わざわざ隠して……ツンデレめっ」だとか言っている。最後の奴は気持ち悪い。ただ気持ち悪い。

 僕のような上級者にもなると、チョコがあるかもというような期待は一切抱かない。まさに上級者。


「おっはよー藤原君っ!」

「うんおはよう、崎野さん」


 この人は崎野陽奈乃。陽キャだ。太陽のような陽キャだ。しかも可愛い。神に例えるなら天照大神だろうか。太陽だし、可愛いし。

 彼女はいつもこうして男子に見境なく仲良く接して、(もしかして崎野さん、俺に気があるのか?)と勘違いさせて告白したら「別に好きじゃないんだけど……」と言って断る、まさにテロリスト。悪質だ。

 本当、ぼっちにまで関わらないでほしい。好きだと勘違いしてしまうだろう。

 なに? 勘違いする方が悪い? こちとらぼっちだぞ。ぼっちの勘違い力なめんな。まあぼっちだからこそ勘違いに対する耐性もあるのだが……


 ともかく、そんなこんなで一部暗く一部明るい雰囲気で午前の授業を終える。


 昼休みになり弁当を食べ始める。

 僕はもちろん一人だ。皆んながわいわい騒ぎながら弁当を食べている中僕は一人黙々と弁当を食べる。

 食べ終えた弁当箱を片付け、さあ昼寝をしようかという時、僕は見た。崎野さんが僕をチラチラッと見ながらソワソワしているのを。

 ラノベならばここで僕が「どうしたの崎野さん」だとか言って展開が広がるが生憎現実は違う。話しても「何もないけど……」と言われて終わる。心がえぐられそうだ。というかそもそも話さない。

 そうそうラノベで思い出した。ラノベの主人公に物申したい。あれコミュ障のぼっちだとか言ってるくせに、人と喋れてんじゃねーか。真のコミュ障というのは、人に話しかけられても「えっ、う、うん」ってきょどったり無言で頷くんだぞ。本物のコミュ障なめんなよ。

 閑話休題。


 僕は午前中の疲労回復のために、夜の三倍ほど睡眠効果のある昼寝を始めようとする。


「あ、あのっ、藤原君っ」

「ん?」


 いつも元気な崎野さんが少しきょどりながら僕に話しかける。崎野さんがきょどるなんて珍しいな。

 クラスのみんなもこちらに視線を向けてきた。そのせいで普段目立たない僕が目立っているようで緊張する。

 崎野さん、話を、話を続けてっ。視線に殺されるっ。


「あ、あのっ、藤原君っ、好きですっ」

「へっ?」


 彼女はそんなことを言いながら僕に丁寧にラッピングされた箱を差し出す。

 えっ、いや、ちょっと待って、頭の理解が追いつかない。崎野さんが僕のことを好き? そんなバナナ。間違えた、そんな馬鹿な。


「えっ、これっ、えっ?」


 僕はコミュ障故にきょどってしまう。恥ずかしい。というかコミュ障じゃなくてもきょどるだろう。


「私藤原君のことが好き。本命だから受け取って」

「えっ、ほんとに? 冗談じゃなくて?」

「うん本当だよ」

「そう、なんだ。ありがとう」


 崎野さんからチョコを受け取る。

 あれ? なんか意外とずっしりとしてる。思いの外質量が……これ本当にチョコ?

 ふと教室を見渡すと僕たちに注目していた全員が驚愕だったり嫉妬だったりとありえないものを見たような顔をしていた。あ、あの人「ムンクの叫び」みたい。


「藤原君のために頑張って手作りチョコにしたんだよ」

「そうなの!? わざわざありがとう嬉しいよ崎野さん」

「ふふふっ」


 初めて(親はノーカン)チョコを、しかも本命をもらったのは素直に嬉しい。昇天しそうだ。

 あ、ここで一つ問題が。お返しってどうやって返すの? 何を返すの? チョコ? 初めてだから分からん。というかホワイトデーっていつだっけ。 


「それでね、お返しだけど今、もらっていいかな」

「えっ、今?」

「そう今」


 今返すの? 何を? 渡せるものなんてないけど。


「お返しは……藤原君のファーストキス」

「へっ、あっ、ちょっ、待っ――」






 ◇◇◇






「――はっ!」


 目を覚ます。どうやらさっきのは夢? だったようだ。良くないような良かったような。

 まあ夢だよな。僕がチョコをもらえるなんて……正夢ってことはないよな?


 まあいっか。






 僕はこの後正夢になったかもしれないしならなかったかもしれない。それは読者の皆んなの判断にお任せよう。

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バレンタインデー シュタ・カリーナ @ShutaCarina

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