風邪を引いたら

@dukekikurage

病気になったら、誰だって優しくされたい

「え、俺が面倒みるの?」


「三咲ちゃんのママ急なシフトが入って帰るの遅いんだって。あんた何時もお世話になってるし様子見に行ってあげてよ」


学校の帰り道。母親から連絡がきたかと思えば、隣の幼なじみを看病しろということ。それ事態は別に良いのだが……。


「一応俺男なんだけど、弱った女と二人きりにしていいの?」


「そんな度胸があるなら今頃彼女の二人や三人出来てるでしょ」


ぐうの音も出ない。男は度胸。女は愛嬌。女を押し倒す胆力があれば、もうちょっと華やかな人生を送っていただろうに。


「分かったよ。鍵はいつもの所?」


「いつものいつもの。あと飲み物買ってあげて。フルーツのゼリーとかプリンとかも」


「後で請求するからな」


「レシートよろしく」


帰り道にあるコンビニで必要な物を購入し、いつもの隠し場所から

鍵を取り出して中に入った。




「いらっしゃい……」


「体起こさなくていいよ、熱下がった?」


「分かんない、朝しか計ってない」


覇気もなくかすれた声。赤みを帯びた肌は彼女が病人だということを示している。


「今計って、何処に体温計あるの?」


「多分リビングの所」


小さい頃から遊んでいるせいで大体の配置は分かっている。


「直人くん家の主人より家に詳しいんじゃないの?」


三咲の母親から言われた言葉を思い出す。幼なじみだからとはいえ

他人の家のことに詳しいのはどうなのだろうか?自分に疑問を持った。


「37.8度ね」


受けとった体温計を確認。これじゃ明日もダメだな。


「今朝と比べて下がった?」


「分かんない、覚えてない」


重症だな。普段の彼女なら覚えてないなんてありえない。頭の回転がかなり落ちているらしい。おっと、忘れる所だった。学生鞄からペットボトルを取り出す。


「これスポーツドリンクね、水分補給してる?」


「あんまり……」


「少しでもいいから飲んどきな」


有名メーカーのドリンク。一応1.5リットルを買ってきた。コップに注いで手渡す。三咲はゆっくりと体を起こすとコップを受け取った

少しずつ喉に流し込む三咲。そういえば。


「頭の冷えピタ何時の?」


「分かんない。朝のかも……」


「頭貸して」


ぬるくなった冷えピタを取り替えて、新品の物を額に張りつけると冷たさで軽く声を漏らす三咲。何か足りない物はないか。辺りを確認すると加湿器の水が尽きそうなのに気がついた。


「加湿器の水を取り替えるけど、ついでに体拭く?そうならお湯も準備するけど」


「……。ふく」


二回に降りて準備をする。容器に水を入れ、やかんでお湯を沸かす。風呂場から洗面器と綺麗なハンドタオルを用意して。


「入っていい?」


ノックをしてから返事を待つ。かすれ声が聞こえて問題ないことが分かったので部屋に入る。


「これ、お湯とタオルね。部屋出るからその間に体拭いといて」


「うん」


「何か食べたい物ある?プリンとかゼリーとかあるけど?」


「うん、えっと……」


深く考え込む三咲。この感じは多分……。


「ここにないなら買ってくるし、簡単なものだったら俺でも作れる。こんな時くらい遠慮するな」


三咲はまあいいやの精神で本当に欲しい物や事を我慢する。殊勝な心がけとは思うが今の彼女は病人だ。今我が儘を言わなくて何時言うのか。


「じゃあ、卵のお粥が食べたい」


「はいはい、お粥ね」


「多分冷凍のご飯あるから使って。一番下の段のやつ……」


「分かった、ちょっと待ってろよ」


階段を降りながらスマホで卵粥を検索。作り方は簡単で、よそ見でもしなければ焦がすことも無さそうだ。


「上手く作れるかな?」


こんなことになるなら普段から料理をしておけばよかったと後悔する。まずは冷凍庫から、拳くらいのご飯を取り出してレンジで解凍。醤油とお酒を用意。鶏ガラスープの元使うようだが、あいにく切らしているらしい。ふと、冷凍庫の中に生姜チューブを見つける。


「体が温まるんだっけ、少し入れとくか」


解凍したご飯と水を入れて中火で煮る。泡がぼこぼこ浮き始めたら

生姜チューブ、醤油、お酒を入れて味見。


「ちょっと薄いかな、卵も入れるから味ぼやけるし塩を足すか」


塩を一つまみ。といた卵を回すように鍋に入れて火を止める。器に盛り付けて、スプーンを取って彼女の部屋に戻る。


「味は大丈夫か?」


返事もせずに黙々とお粥を食べる三咲。気に入ってくれたみたいでよかった。


「ねえ、なおちゃん」


「ん、なんだ?」


「まだある、このお粥?」


あっという間にお粥を腹に入れて

おかわりを要求する三咲。自分の料理を求められる感覚に気分が高揚する。


「まだまだあるよ」


鍋ごと運んでやるとほとんどを平らげてしまったことに驚いた。この調子なら心配無さそうだ。


「なんで笑ってんの」


「別に、これだけ食べれるなら明日には回復しそうだなって」


「嘘だ、あたしがバクバク食べるから面白がってんでしょ」


「俺は食べる女が好きだけどね」


「ふんっ」


不満そうに口を尖らせながら、お粥を食らう三咲。俺もそろそ家に帰らないと。


「もう帰るよ、なんかして欲しいことある」


「ない」


「なんかあったらスマホに連絡な、遠慮したら許さんからな」


「ん」


自室に戻り制服から部屋着になる

棚から適当にマンガを取り出して

ベッドにうつ伏せになって読む。

ブレザーのポケットから着信の知らせが響く。確認すると三咲からのメッセージが。内容は短く。


ありがとう


それだけだった。彼女からの通知は俺の心を熱くした。


「料理の勉強でもするかなー」


マンガをベッドに置いて、台所に向かう。次はもっと美味しくて、もっと良い物を食わせてやりたいから。


「ねえ、母さん。俺に料理教えてよ」

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