第18話 旅館


 「ここが宿かあ」


 乙葉と美咲は出雲担当陰陽師から指定された宿に着いていた。荷物はすべて乙葉が持っている。


 最初は自分も持つと聞かなかった美咲だが、乙葉も譲らなかった。やはり周りから見て、本家と分家の境目はしっかりとしなければならない。


 「では、ごゆっくり」


 宿屋の女将が部屋まで案内してくれた。荷物を置き、腰かける。


 「疲れた~~~」


 「やっぱり疲れるよな」


 美咲は座椅子に座ると、ぐったりとした。乙葉は荷物を整理しながら話しかける。


 「うん。新幹線に乗ったの、中学の修学旅行以来だよ」


 「・・・考えてみれば、俺もそうかな」

 

 乙葉は冊子を取り出して、テーブルの上に置いた。出雲担当陰陽師から事前に渡された、神楽祭の詳細だ。


 「一応確認しておこう。美咲も持ってるだろう?」


 「うん。確か、明日からだよね」


 「ああ。まず神楽。次に公開討伐。その後、懇親会だ。・・・結構ハードだな」


 「そうだね。懇親会出れるかな・・・」


 乙葉はテーブルの上にある、ケトルのスイッチを入れ、お湯を沸かす。


 「ま、公開討伐は辞退すればいいし。懇親会も強制じゃない。出たくないなら、」


 「父から懇親会は出たほうがいいって言われたんだけど、どう思う?」


 美咲が茶葉を乙葉に渡した。ほぼ毎日会っていた彼らは大体相手が何を考えているか、わかるようになっていた。


 茶葉を急須に入れながら、乙葉は答えた。


 「俺もその話は聞いたよ。美咲は次期当主だから、顔を覚えてもらうのはいいかもしれない」


 「そうだよね。でも、ダンスパーティーなんでしょ?」


 「? そうだけど、ドレス入れておいたって美紀さんが言ってたよ・・・」


 「もう、ダンスパーティーならパートナーいるでしょ? 母は乙葉の分の正装も入れたって言ってたわ」


 「・・・・まじで?」


 「うん、まじだよ。がんばろうね」


 「・・・・善処する」


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 「なあ、ここ温泉があるらしいぞ」


 お茶を飲んで、くつろいでいた乙葉は旅館のパンフレットを見ながらそう言った。


 「へえ~、温泉かあ。疲れたし、行ってこようかな」


 「ん、じゃあ俺は後で入るよ。行ってきな」


 「うん、ありがとう。行ってくるね」


 美咲はそう言って、部屋から出ていった。乙葉は手輪をいじりながら、背もたれに体を預けた。


 「鴉」


 «・・偵察か?»


 「そうだ。視覚共有も頼む」


 «ほいほい»


 乙葉の手から鴉が現れ、開け放した窓から飛び立った。旅館周りの偵察と、旅館の構造把握のためだ。


 ※次回更新 4月8日 水曜日 0:00

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