第17話 いざ、神楽祭へ


 ゴトン、ゴトン、


 新幹線がゆっくりと動き出す。外の景色が流れていく。


 「いよいよ本番だね」


 「ああ、そうだな」


 乙葉の横には美咲が私服姿で座っていた。すでに両手の拳を握り締めている。


 「そんなに緊張してたら本番までもたないぞ。少しでもいいから、休みな」


 「わかってるんだけど、どうしても、ね」


 美咲は弱弱し気な笑みを浮かべた。今回の神楽祭において、本家の当主代行、篠宮美咲に分家当主、鴉宮乙葉が付き添いとして同行すことになった。


 篠宮信三は神楽の伝承がたたったのか、体調をくずし、寝込んでしまった。その代わりに乙葉が頼まれたのだ。


 (別に頼まれなくってもついていくつもりだったけどな)


 乙葉が窓の外をぼーっと眺めながら、美咲に話しかけた。


 「なあ、この時期に悪霊が減る理由、知ってるか?」


 「ううん。そういえば、各地の当主が担当地区を離れちゃったら、問題だよね」


 「まあ、いつもなら、ね。10月が神無月っていうのは知ってるだろ?」


 「うん」


 「でも、出雲では逆に神在月っていうんだ。各地の神様が集まるからね。そうなると、10月だけ地霊脈のバランスが崩れるんだ」


 「出雲に集中するってこと?」


 「そう。だから、必然的に出雲以外の地域では悪霊が発生しない。成長するための霊力が自然界からなくなるからね。でも、出雲には悪霊が大量発生するようになる」


 「だから、公開討伐なんてしてるんだ」


 「そういうこと。もともと神楽祭ってそのためだったらしいし」


 「でも、私にとっては神楽のほうが大事だよ~」


 そういって美咲はノートを開いた。中には図入りで神楽のメモがとってある。それを食い入るように見つめだした美咲に乙葉は腕を伸ばす。


 ぺチッ


 乙葉の指が美咲の額を叩いた。


 「っ! 何するのよ~」


 「休めって言ったろ。復習はついてからいくらでもできる」


 そう言うなり、乙葉は目をつぶった。美咲は額を押さえながらそんな彼を見て、ため息をついた。


 「やらない人は気楽でいいなあ、」


 (気楽でもないよ・・・・。多分だが、あいつに絡まれる予感がする)


 乙葉の脳裏にあのおちゃらけた男の姿が浮かんだ。正直、害ではないが邪魔ではある。


 «やっぱり付いてくることになったな»


 (・・・寝たいんだけど、)


 «お前さんは乗り気じゃないみたいだが、わしは結構楽しみだぞ»


 (・・・・・へえ、めずらしいな)


 «当たり前だろう。おのが主の力がようやく日の目をみるんだから»


 (俺にその気はない・・・・・・・・・・・)


 ※次回更新 4月4日 土曜日 0:00

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