第19話 偵察


 小高い丘の上に位置するこの旅館は周りを竹林で囲み、近くに民家はない。陰陽師御用達の宿であった。


 その旅館の周りをゆっくりと一羽の鴉が旋回している。高度を絶えず変えながら、風に乗っている。


 «・・・今のところは、異常はないようだがな»


 (もう少し高度を上げてくれ)


 その頃、乙葉は旅館の部屋で目をつぶって、座椅子に腰かけていた。視覚共有をしているので、鴉の見えているものは乙葉にも見えている。


 «上げてどうするんだ?»


 (・・ここを監視する奴が近くにいるわけないだろ)


 «それもそうだな»


 鴉が高度を上げると、風が強くなり、視点の揺れが激しくなった。


 (・・・吐きそうなんだが、)

 

 «ええい、注文の多い奴だな。それぐらい我慢せい»

 

 はるか上空から見た出雲は、出雲平野に多数の河川が流れ、鼻高山がそびえていた。


 «・・・・綺麗なところじゃな。霊力が集まるのも納得だ»


 (・・・そうだな)


 一瞬景色に見とれていた2人だったが、すぐに偵察に戻った。高所から見下ろすと、宿の近くに別の宿が見えた。ただでさえ街から離れた立地なのに、目立たない看板をひっそりと上げている。


 «いわゆる、穴場というやつか»


 (霊力感知に引っかかるか?)


 無駄口をたたいていた鴉も怪しいと感じたのか、霊力感知に集中し始めた。乙葉の位置からでは視覚共有が精一杯なので、探索は鴉に頼っている。


 «引っかかったわい。・・・この反応、いつぞやのガキだな»


 (なに⁉ 学校まで来たあいつか。・・・・当主だったのか)


 «そうらしいな。基本当主はお前がいる宿に泊まることになっているが、断るものもいるというからの»


 (わかった。もういい。引き返せ)


 «おう。わしも撃ち落されてはかなわん»


 こちらから見えるということは、向こうからも見えているということになる。攻撃される可能性もゼロではない。


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 «ほおう、あの時の小僧の使い魔が飛んでおるぞ»


 「え! まじで! どこどこ?」


 «お主に見えるか、バカたれ。攻撃するかや?»


 「いや~、どうせなら公開討伐でちょっかいだしたいからいいよ」


 古びた宿の一室で、少年が猫と話していた。少年の顔は生き生きと輝いている。


 «あやつが出るとは限らないじゃろ»


 「そのへんは問題ないと思うよ。あそこの本家はちょうど代替わりが近いと言われてる。 そこに付け込めば、やってくれるよ、彼は」


 «・・・・・・»


 「楽しみだなあ。神楽なんてどうでもいいから、彼とやりたいよ。俺よりも強い彼にボコボコにしてほしいよ」


 ※次回更新 4月11日 土曜日 0:00

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