第7話 再会
一旦帰郷した勲は、何もしていないのにただ家にいるのは単なる穀潰しで気を使うだけだ、パチスロをしようにも、ネットの口コミを見てもここら辺には出るパチスロ店が無いし、風俗は皆無、だが、一人で悶々とするよりかは図書館へと出かけようと、朝食を済ませ、琢磨が幼稚園に出かけるのを見送った後に、巧の図書館利用券を借り、ぶらりと家を出る。
巧達は図書館が改築して変わったんだと口々にそう言っていたが、どうせこんな、人口が対して多くない町に図書館を改築する余裕はないだろうし、あってもほんの少しの改築なんだろうなと、タバコを口にくわえながら、部屋にあったMDプレーヤーを持ち出し、高校生の時に周りで流行ったミスクチャーバンドの曲を聴いて、ぶらぶらと図書館までの1キロ程の道のりを歩いている。
ヒカリ町の住民は、やはり隣町のカゲロウ市に『おぼろ化工』という大手メーカーがある為、派遣社員や期間工、そして幾多の面接をくぐり抜けた、数少ない正社員としてそこに勤務する人間が多くいるせいか、スーツ姿の人間は殆どおらず、二駅ほど離れた所にオフィス街がある自分が住んでいる所とはえらい違いだなと勲は思い、自販機で缶コーヒーを購入する。
(母さんの作ったご飯うまかったなあ……)
学生の時はそう感じなかった千尋の料理は、ろくに料理ができず、いつもご飯は勤務先のコンビニで貰った廃棄品の弁当や、近所の定食屋やファミレス、ラーメン店で済ませていた勲にとっては久しく美味しく感じられる。
微糖の缶コーヒーを喉に流し込み、一服しながら10分ほどぶらぶらと歩いていると、大きなコンクリート製の建物が勲の目の前に現れる。
(……!? いやなんだありゃあ!?)
この街に不釣り合いな、あまりもの整備された建物に勲はくわえていたタバコを地面にポトリと落とした。
📖📖📖📖
ヒカリ図書館は、前は小さな町の小さな公民館に併設された図書館といった具合の建物だったが、町おこし施策で国民の血税を使い、3階建ての大きな建物へと変貌を遂げた。
(まさかこんなに大きくなるとはなぁ……)
勲は図書館の余りもの大きさと、所蔵されている本の多さに、これは自分の住んでる町の図書館よりも数段上だと、ぐうの音も出ない驚嘆した顔で、不審者のようにあたりを見回している。
勲の不審者ぶりを、常駐の図書書士達は「なんだこのオッサンは?」と怪訝な顔をしながら見ており、そんな勲を煩いとばかりに、誰かが咳払いをする。
(はっ、ヤベェ、俺これじゃあ不審者そのものだ……なんかな、本でも借りようかな。いやでも、芥川賞とか直木賞の作家の本とか昔の古典文庫とか全部読んだからなぁ、暇だなぁ。……まてよここは、パソコンはあるかなぁ?)
勲は、自分が一応小説家という身分で、本と名のつくものはほとんど読んだのを思い出し、今更本を借りたとしてもビジネス本ぐらいしか役に立ちはしないだろう、スマホで字を見るのは最近なんかしんどくなってきたなと思い、パソコンコーナーはないかと周りを見回すと、奥の方にパソコンコーナーがあるのが見えた。
「あのう……」
「は、はい?」
勲とさほど歳が変わらない年齢の職員は、まさか自分が尋ねられるわけはないだろうなと思っていたのか、意表を突かれた顔をして勲に何の用かと聞き返す。
「パソコンを使いたいのですが……」
「あぁ、案内しますよ……」
勲は自分が嫌われているのに気がついていないのか、美人だなこの人と鼻の下を伸ばし、阿保の、情けない面をして職員について行き、手続きを終わらせてパソコンの前の椅子に座る。
(あれっ? 誰だろ?)
スマホのバイブに気が付き、液晶を見やると、千春からのラインが入っている。
『失業者ライフはどうかな?』
『最低だよバカ野郎』
自分だって失業者になるくせに……勲はそう思い、パソコンをいろいろ操作するのだが、動画を見ることができないのを知り、エロ動画が見れないから退屈だなと思っている。
『まぁそう腐るなよ。早番の後にハロワ行ったら、こんないい制度見つけたんだよ』
千春からの次のLINEメッセージには、『生活困窮者自立支援制度』と書かれたUSLが貼られており、ワンクリック詐欺なのかこれはと思い、千春に尋ねる。
『何だこりゃあ?』
『生活がやばいくらい困ってる人向けのセーフィティネットだ。安いんだが仕事探しを手伝ってくれるんだよ。行政でやっているんだよこれ。俺これ利用するつもりでいる』
マジか、というセリフを吐くキャラクターのスタンプを千尋に送り、勲はパソコンの検索システムで生活困窮者自立支援制度の事を調べる。
出てきた文字を見て、勲は思わずガッツポーズをした。
(これならば、何とかなる、のかも知れねぇな……!)
「お隣失礼しますね……」
勲の言動に不信感を覚えたのか、茶髪でパーマをかけた女性が、自分に何かされるんじゃないかという恐怖の入った表情で勲の隣の席に座る。
「……?」
勲はその女性を、昔どこかで会ったかのような、懐かしい顔つきで見やる。
「あのう、何か……ん……?」
「英美里、か……?」
「勲……?」
それは、堂本英美里と桔梗勲との20余年振りの再会であった。
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