A-1 精算 ―騒乱―
話は少しまき戻り。
或る旅の途中。
旅の途中とは言ったけど、正確に言うならこれは旅の帰り道だ。ただ、レミもサイカも「帰るまでが旅なのだ」と言って聞かないので、まあ旅の途中ということになった。
ベスボグ平野での死闘を終えて、どういう訳か私の宿敵だったはずの『最強』――今は元、だけど――が、どういう訳か私と同じ、レミの
「どういう訳なんじゃーーー!!!!」
ついに声に出てしまった。何ごとかと先を行く二人が振り返った。
「やっぱり、メイド長も歩きはおかしいと思うよね。レミがどうしても歩きがいいって言うから付き合ってるけど。」
私達の旅の目的は全部果たされたので、まずはロロとの約束を果たそうということになり、私達は一路魔法都市に向かうことになった。歩きで。
「でも、私達はずっと歩き旅でしたから。やっぱり最後まで歩きたいです。」
レミの言葉はサイカが魔法をかけて、また普通に話せるようになった。腐っても元『最強』ということか。ついでにレミのローブまで直したけど、なぜか所々欠けたりしてる私の装備は直してくれなかった。別にいいけど。
しかし二人の発言は的外れだ。……どんな結論でも支持するとは思ったけど、さすがにこんな結末になるなんて思う訳がないじゃないか。
という訳で、受け止めきれていない今日この頃。まあ、レミが楽しそうなのが幸いといったところか。
レミの記憶は、少しずつ戻ってきているらしい。詳しくは聞かないけど、なんとなく分かる。少しずつだけど、変わってきている気がする。最近はサイカとさらに話が合うようになったし。
なんでかレミは変わってないように振る舞おうとしているみたいだから、そのことについて私からは何も言ってない。変わるのは分かってたことだし、レミ自身にもたぶん戸惑いみたいなものがあるだろう。
「ちょっと聞いてる?」
「え、ああごめん。ぼーっとしてた。」
「まったく、元はといえばメイド長さんが変な声上げたからなのに。」
なんでもいいが、いい加減メイド長と呼ばれるのも慣れてきてしまったな。
*****
もちろん、サイカが
……まあどんな決断でもそれに従うと決めたのは私だ。ちょっと時間が掛かるかもしれないけど、甘んじて受け入れよう。
「いやおかしいでしょ!!!!」
ベスボグ平野を離れ、町をいくつか過ぎたあと。森の中でキャンプの準備をしていたらいきなりサイカが叫びだした。
「なに、いい加減歩き旅なのは納得したでしょ?」
「いやそれもだけど。そうじゃなくて。よくよく考えたらなんでメイド長さんは私をそんなすんなり受け入れてるの。」
ここまでずっとうだうだ続けておいてなんだけど、一応言っておくが受け入れてたわけではない。
「それで、何が不満なの。」
「私、小説とか読んでて一番許せないのが、悪役がなんかよく分かんない理由で許されるやつなんだよね。」
なるほど。つまり今のサイカだ。
「わ。私はそういうのも別に嫌いじゃないですけど。」
「レミはなんというか、そういうのこだわりなさそうだしね。分かる分かる。」
でも私は違うと。しかし、だからといってどうすればいいのか。ふと昔ロロの家で読んだ物語本を思い出した。たしかわだかまりがある二人が川のほとりで戦うやつがあったな。
「えーっと、それじゃあ。また戦う?正直、レミは戦う理由はないし、私が勝てる気はまったくしないけど。」
「やる前から諦めるのはメイド長さんの悪い癖だね。」
いやまて、癖ではない。少なくとも私は一度やったぞ。
「でもその提案は悪くないかも。」
それでサイカが構えたから私も構える。どうせ負けても死なないし、大人として気が済むまで付き合ってやってもいいだろう。
でも、そうしたら急に力が抜けた。レミの方を見たら少しむくれている。
「喧嘩はダメです。それよりもキャンプの準備をしましょう。」
――私達が
いや私は別にこれまでも悪いことなんてしてないけど!……そんなには。
キャンプの準備を終えて食事を摂っている間も、サイカはずっとふてくされていた。
「そもそも一日おきに町がないのはおかしいでしょ。そんなんじゃ交易が死ぬっての。」
ついにはどうにもならないところにまで文句を付け始める。それほどに少ない町を消してたのは誰だという話だが。
なんでもいいが、空気が悪い。レミに取りなすよう目配せを送る。私が何を言ってもサイカは否定から始まるだろうから、レミから何か言ってもらうのがいいだろう。
「あの、サイカは、私の
「……べつに、そうじゃないけどさ。」
「じゃあ、歩くのが嫌いとか。」
「嫌いだけど、別に嫌ってほどじゃない。」
「じゃあ、なにが嫌なんですか?」
レミの質問には答えず、ぷいとサイカはそっぽを向いてそのままふて寝してしまった。
とんだわがままだ。レミと顔を見合わせて、ため息がかぶった。
*****
朝、太陽の光に目が覚めると、サイカがいなかった。
代わりに、地面に見たことない……文字?絵には見えないから、たぶん文字だろう。レミの方を見ると、なんだかおろおろし始めた。
「あ、あの。サイカ、探さないでくださいって。」
レミが読めるってことは、さしずめ
「へぇ、心配するなってこと?なんだろ、朝ご飯でも探しに行ってくれたのかな。」
意外と殊勝なところがあるものだ。……私に読めない文字を書くのは嫌みにも思えるけど。
しかし、レミは首を振った。
「この場合、家出しますっていうことです。帰るつもりはないから探すなって。」
「……家出って、そもそも私達には出てく家がないんだけど。」
まあそれはいい。探そうと思えば探せるけど……いや、サイカのことだ。本気なら痕跡を消し去っていてもおかしくはない。探索魔法は効かないかもしれない。
それに、探すなというなら探さないでやるのも優しさだろう。
……とは思うのだが、どうもレミの様子がおかしい。というか今にも飛びださん勢いだ。
「レミ、落ち着いて。まずキャンプの片付けをしよう。」
「でも、本当に帰ってこなかったら。」
心配性なことだ。思わずため息が出る。……よし、こっちから片付けよう。
「サイカをここに戻したい?」
レミはこくりと頷いた。
「じゃあ、
ああとだけ言って、レミは目をつぶる。森の向こうの方から「ぎゃー」という声が聞こえてきたと思ったら、レミの手元に光が集まって、カードの形をとった。
なんだ、案外近くにいたんじゃないか。
しばらくして、サイカがまた
「ちょっと!私が一番嫌いな――」「それはいい。」
下手なものまねを見せられる前に止める。というか、その時サイカはいなかったはずなんだけど。レミの方を見ると、分かりやすく視線を逸らした。まあ、それ以外の情報源がないのは分かってたけどね。
「さ、さあサイカも準備しましょう。今日にはまた町に着きます。よね。」
「誰かさんがまたわがまま言わなければね。」
「えー、メイド長さんいい年なのにまだわがままなんて言っちゃうんだー。」
こいつは……。小憎たらしさが擬人化されたような存在だな。
「……いい年と言えば、よくよく考えてみたらサイカも十年前の戦争にいた訳だし、その前に魔女になってたわけだから……えーっと?」
そもそも『最強』の伝説が騒がれたのは戦争より前だ。となると……あれ、実はサイカも割といい年――
「おーっと、私は永遠の十五才だから!暦も違うし、なんなら
謎のポーズを決めながら言ってくる。まあ、少なくとも十五よりは上だな。
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