8-EX 『最強』の帰還
ソコングロでロロと再会を果たしたのち、私たちはジジ……レミの師匠の家に向かっていた。
「師匠に挨拶して、それからどうするの?」
「うーん、エレノラと一緒なら、何でもいいですよ?」
レミは、また流ちょうに話せるようになった。サイカがそうなるように魔法をかけたのだ。さすがは元『最強』。なんでもできるらしい。
「レミはほんとにエレノラさん大好きだよね。ちょっと妬けちゃうな。」
サイカはレミの
そうは言っても、心の内から許せるほど単純でもない。とりあえず当て付けにレミを抱き締めてみせる。
「あー!ずるい!」
「エレノラ、歩きづらいです……。」
私はそのまましばらく歩きつづけた。が、レミの言うとおり歩きづらいので、すぐにやめた。
*****
ジジイの家は、もぬけの殻だった。
「あれー?誰もいないよ?」
サイカが部屋をどたばたと見回って、報告する。
私は、二階のレミの部屋の机の上に手紙が置いてあるのを見つけた。
「レミ、これ。」
レミに渡すと、レミはそれを音読し始めた。
「『我が最後の弟子、レナよ。どうやらアカデミアの連中にここがばれたようで、にわかに騒がしくなった。そこで、私は家を棄てることにした。どこかで宜しくやっておるから、心配せぬように。
「『さて、これを読んでいるお前が、お前の目的を果たしていることを切に願う。お前が
「なんだか照れるわね。」
あのジジイにそんな風に言われるとは思わなかった。というか、そもそも私のことなんかよく知らないかと思ってた。まあしかし『
レミは微笑みを返して、また手紙を読み進める。
「『もし、お前の記憶が戻り、何をすべきか迷うようであれば、まずは弟子を探すのが良いと私は思う。弟子を持ってこそ、魔女は一人前の魔女となる。そして、人を知り世界を見れば、自ずと自らのすることが見つかるであろう。
「『もし、困ることがあって、その時私を見つけたならば、遠慮なく頼るが良い。師とはいつまでも師であり、師とはいつでも弟子を想うものであるから。
「『追伸 この家はお前が好きに使うこと。 隠者』」
レミは読み終わったその手紙を大事そうに丁寧に折り曲げ、ナップサックの中にしまった。
「……私、弟子を探します。師匠の言うとおり。」
「……うん。いいと思う。」
レミならきっといい弟子を見つけられる。根拠はないけど、そう思った。
「でも、今日はもう休みましょう?」
レミを見るとにっこりと笑って大きくうなづいた。
*****
夜。私たち三人は屋根の上に登って満天の星空を見上げていた。
こうしていると、出発の前の夜を思い出す。
「そういえば、レミって記憶戻って来てるの?」
薄々そうなんじゃないかと思っていたけど、よく考えたら聞いてなかった。レミは、ちょっと慌てたみたいに頷いた。
「あ、はい。そういえば。」
あんなに必死だったのに、手に入れたらそんなものなのだろうか。まあ、それだけ自然に思い出せるようになったということなのかもしれない。
「ねえ、出発の前の夜、こうやって一緒に星を見てた時の約束、覚えてる?」
「……はい。」
少し恥ずかしそうにレミが答える。と、ゆっくり脚を動かしながら星を見ていたサイカが食いついた。
「なになに、どんな約束?」
「えっと、私が私の世界の歌を歌うっていう……。えと、今ですか?」
私はゆっくりと、にっこりと頷いた。
「それじゃあ、歌います。」
諦めたようにレミはうなずいた。
「どんな歌なの?」
先に聞いておかないと、私には歌詞が分からない。
「えっと、星が大事なことを教えてくれる、みたいな。ちょっと言葉は難しいですけど、私の好きな曲です。」
サイカが口に手を当てながら考えている。あまりピンと来ていないようだ。
レミが一つ深呼吸をして、静かに歌い出す。有名な歌なのか、サイカもすぐに合わせた。
二人の歌が夜空に響く。素朴だけど、とても心地よい響きの詩だった。
*****
「そういえば、レミの本名って、結局『レナ』じゃなかったのよね。教えてくれる?」
レミは私にそっと耳打ちをして、いたずらっぽく微笑んで指を口に当てる。
「……秘密、ですよ?」
私とレミの出会いの旅は、これで終わり。でも、わたしたちの旅は終わることは無い。
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