7-EX 『最強』の憂鬱

 『最強』ことサイカは草原の岩に座りながら、人を待つ。

 現れたのは甲冑を来た騎士風の男。

 「貴様が『最強』か。」

 サイカはつまらなさそうに髪をいじりながら答える。

 「そうだけど。あなた、だあれ?」

 男は肩を震わせながら、腰に付けた剣を抜く。

 「俺を忘れたなら思い出させてやる。俺はアルフ・エル・ダミーヌ。貴様が焼き払ったダミーヌの生き残りだ。」

 「そっか。あなたも『勇者』だったんだ。それじゃあ、物語を終わらせてあげないとね、悲劇の主人公さん。」

 サイカが髪をいじるのを止め、立ち上がると、男はサイカに向かって切りかかる。

 しかし、サイカがその剣先を見つめるだけで、その剣は動きを止めた。アルフが腕をどう動かしても、その剣先はサイカの眼前でピタリと止まって動こうとしない。

 「な、何!?」

 「えーっと、アルフ?さん。あなた、唯の人間なのに魔女に勝てると思ったの?しかも一人で?」

 サイカは剣を動かそうともがく男の甲冑に触れる。

 「こ、この甲冑には抗魔の魔術が施されているんだ。魔法なんて効きやしな」

 「消えて。」

 サイカの一声に甲冑が光に包まれ、そして消えた。

 「な、な。」

 「それじゃあね。バイバイ。」

 サイカがため息を一つつくと、男は爆炎に飲み込まれ、跡形もなく消え去った。爆炎が巻き起こした風でサイカの髪がひるがえる。

 「……こうしてまた、悲劇に幕が降ろされたのでした。まあどう考えても準備不足だよね。ひのきのぼうを片手に単身魔王に挑む勇者なんてどこにもいないって話。」

 サイカはまたため息をつくと、岩の上に座り、人を待つ。

 「はーやっくふったりっがこっないっかなー。」

 服のポケットから魔石を出して覗き込み、脚を軽くパタパタと動かしながら、イヒヒと笑う。


 彼女が指定した日にちまで、あと、五日。

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