7-5 戦いの準備 ―決意―

 「終わりましたか。」

 声をかけられて振り向くと、双子たちがこちらを向いていた。

 「ええ。悪いわね。あなた達のご主人様は、私たちのものよ。」

 「その様ですね。」

 『画き出す双子ドローリーツインズ』は、何事もなさげに答えた。

 「あなた達、これからどうやって生きるの?」

 「さあ?しかし、心配はご無用です。こんな場所でも生きられたのです。どこでも、生きることはできるでしょう。」

 『唱える双子トーキーツインズ』は笑って見せる。確かに、ここよりも生きにくい場所はなかなか見つけられないだろう。

 「それじゃ、そろそろ私たちは行くわ。」

 「ええ、レミ様もお元気で。」

 「あ、お待ちください。」

 『唱える双子トーキーツインズ』の方が止める。何事かと思ったら、『画き出す双子ドローリーツインズ』がレナの下に魔方陣を書き、『唱える双子トーキーツインズ』がその魔方陣に魔法をかける。すると、レナの元に、焼け落ちたはずのローブが戻ってきた。

 「違和感はございませんか。」

 「えと、はい。すごいです。」

 ちょっと触ってみても違和感がない。本当にそのまま戻ったみたいだ。この様子だと、『隠者エレミータ』のかけただろう魔術まで戻っていてもおかしくなさそうだ。

 「それでは、お呼び止めして申し訳ありませんでした。」

 「はい。えと、また、会いましょう。」

 「機会があれば、是非。」

 別れの挨拶を済ませ、杖を出そうとしたが、そういえば杖は無くなってしまったんだった。代わりにフライニーを召喚サモンする。

 レナを先に乗せ、私も後ろに乗る。そして、フライニーは空を飛んだ。

 これでもう、私のやるべきことはただ一つ。『最強』と戦うことだけ。戦って、勝つ。勝てるかは分からないけど、それでも勝たなくちゃいけない。この子のためにも。


 空を飛ぶ間、レナが話しかけてきた。

 「そういえば、ズメウさんの、お名前は、どう、するんですか?」

 「名前って……もうズメウって名前があるじゃない。レナは私にも名前を付けるつもり?」

 「あ、そうでした。」

 レナは前を向いたかと思うと、しばらくするとまたこっちに振り向いた。

 「じゃあ、私のこと、レミって、呼んでください。これからは。」

 そういえば、『レナ』って名前も本当の名前じゃなかったんだったな。

 「でも、その名前でいいの?」

 「それが、いいです。エレノラが、付けてくれた、から。」

 レナは笑ってこっちを向く。なんだか照れてしまって視線をそらしてしまう。ついでに話題を変えよう。

 「そういえば、レミの記憶ももうすぐ戻ってくるわね。」

 私が『最強』に勝てば、だけど。

 「はい。……サイカが、私の記憶、持ってて、良かったです。」

 「どうして?」

 「一緒になりました。私の旅と、エレノラの旅。戦う目的も。」

 こっぱずかしくなってまた目をそむけそうになるが、我慢して今度はちゃんと笑い返した。

 でもそうか。私が、じゃない。私達が、『最強』と戦うんだ。

 あの魔法都市で出会った少女と。ちくりと、胸が痛む。


 空を飛んで少し経った頃。意を決してレミに話しかける。

 「レミは、レミは大丈夫?その……サイカと戦うって。」

 レミにとっては、『最強』は、サイカは初めての友達だ。私は、ロロと戦えと言われたとして本気で戦えるかは分からない。冗談で言うことはあっても、それはあくまで冗談でしかない。

 レミは振り返らないでしばらく黙り込んで、やがて口を開いた。

 「本当は、戦わないなら、それがいいです。でも、たぶん、サイカが戦いたいって。」

 そうかもしれない。レミの記憶を奪ったのは、レミの逃げ道を奪ったようにもみえる。

 ……レミが私の召喚士サモナーだから、そうしたのかもしれないとも、思ってしまう。考えすぎかもしれないけど。

 私が黙っていると、レミは振り返って笑いかけてきた。

 「それに、サイカは悪い子です。友達が、悪いなら、止めないとって。」

 「……『って』って、誰かにそう聞いたの?」

 「はい。ロロさんに。だから、エレノラを、働かせるんだって。」

 ……町一つを消し去ることに比べればかわいいものだと思うんだけど。というか、そんなになまけているように見えてたのか……?

 複雑ではあったけど、レミがレミなりに戦う理由を見つけているならそれでいいか。

 勝手な考えだと思うけど、やっぱり無理にこの子を戦わせたくはない。レミなりに思いやっての言い訳かもしれないけど、それでも私はこの子の言うことを信じよう。召喚獣サモニーらしく。

 「うん。それじゃあ、一緒に止めよう。」

 「エレノラは、それでいいです?」

 「私?いや、レミが戦うって決めたならそれでいいと思うけど。」

 そう答えるとレミは首を振った。

 「殺す、でなくて、止める、で。」

 確かに、前にあった時には、たとえ差し違えてでも、殺すつもりだった。憎い気持ちは、いまもそれほどには変わらない。

 でも結局のところ、私にその力はない。何かを決める、変えるためには、それに合った力がないといけない。ズメウに勝ってよく分かった。その力を持つのは、私じゃなくてレミだと。

 勝つにせよ負けるにせよ、最後に『最強』の前に立っているのはレミになるだろう。

 だから、私は私の変えられるところを変える。私が見たくないものを見ないで済むように。それくらいなら、私にだって出来る。

 「エレノラ?」

 「ううん、なんでもない。『最強』に戦って勝てたら、私はそれでいい。」

 その先は、この子が決める。私は、それがなんであっても、レミを支え持つだけ。

 レミの召喚獣サモニーとして。


 *****


 全ての駒が揃い、目的地ももう分かっている。

 私たちの旅も、もうすぐ終わる。

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