4-EX 研究室の日常

 アカデミア三階の中庭側の部屋。そこを訪れる者は、講義を聞きに来る見習い以外では、基本的にはただ二人しかいない。すなわち、『現実複製者リアルクラフタ』と、その弟子『働き小人レプラコーン』である。

 今日も今日とて『現実複製者リアルクラフタ』はガラス瓶と金属片を相手に遊び、『働き小人レプラコーン』はお茶を淹れるか掃除をしている。

 「あ、そうだ。すり鉢を取ってきてくれ。」

 言われると、即座に『働き小人レプラコーン』は乳鉢と乳棒を取ってきた。

 「何か思いついたのですか?」

 『現実複製者リアルクラフタ』は二つを受け取ると、目の前の金属片を粉状にし始める。

 「いや、昨日例として言ったことを、そういえば試していなかったと思って。」

 「その程度のことなら、私がやりますよ。」

 『働き小人レプラコーン』は乳棒を奪い取って、代わりに金属片をする。

 「いや、私はやりたいからやっているんだ。君にはほかにやることがあるだろう?」

 『現実複製者リアルクラフタ』は乳棒を奪い返す。が、『働き小人レプラコーン』は逆に乳鉢を自分の元に寄せた。

 「今日は掃除も終わりました。だから、私がやります。」

 「いーや、僕がやる。」

 『現実複製者リアルクラフタ』が乳鉢に手を伸ばし、自分の元に寄せようとする。しかし、『働き小人レプラコーン』も譲ろうとしない。

 両者の乳鉢にかける力はだんだんと強くなっていく。

 「お放し、ください。」

 「放すなら、そっちだ。」

 だんだんとすり鉢がカタカタと揺れ出し、ついには『働き小人レプラコーン』の手が滑り、すり鉢の中身がひっくり返ってしまう。

 「あっ。」

 「あっ、危ない!」

 中の粉末が外に飛び出す。飛び出した粉末は、脇に除けられていた電池の方へ向かっていく。

 「守りを!」

 「固まれ!」

 瞬間。二人の目の前で爆発が起きた。しかし、互いにかけた魔法のおかげで、二人が傷つくことはなく、代わりに天井が焦げ付くこととなった。

 「ふう、危なかった。」

 「これだけはいつまでたっても慣れる気がしませんよ。」

 そうは言うものの、『働き小人レプラコーン』は慣れた様子で布巾を取って実験テーブルを拭く。そして、天井を見上げて、今日は飛んでも大丈夫な服を着ていたかを考えていた。


 *****

 

 掃除を終えた『働き小人レプラコーン』は、お茶を淹れて一息を付く。『現実複製者リアルクラフタ』の方はお茶を受け取って窓の方に寄っていく。窓の外では、レミが誰かと戦っているのが見えた。

 「ああ、昨日準備がどうと言っていたのはこれだったのか。」

 「あれ、昨日の子ですか?レミさん、でしたっけ。」

 『働き小人レプラコーン』も窓の方に寄っていく。

 「あ、あれ、相手の方は『魔法少女マジカルガール』さんじゃないですか。すごいなぁ。」

 「君はよく人の名前を覚えていられるね。」

 「お師匠が覚えなさすぎなんですよ。」

 「名前は覚えていなくてもさほど困らないからね。」

 「誰のおかげで困らないんでしょうね。」

 少し嫌みっぽく言っても、気にせず『現実複製者リアルクラフタ』は「そうだね、ありがとう」とだけ言う。

 『働き小人レプラコーン』には、素直に話すのだった。


 二人でしばらく外を見続ける。と、お茶がなくなったところを見てすかさず『働き小人レプラコーン』がお茶を淹れなおす。

 「それにしても、お師匠が人の顔を覚えるなんて珍しいですね。」

 「まあ、旧友が突然連れてきたからね。嫌でも覚えるさ。」

 「でも、名前は覚えてましたか。」

 『現実複製者リアルクラフタ』は何も言わずにお茶をすする。

 「あの、まさかとは思いますが、貴方の旧友のお名前は覚えておいでですか?」

 「分かるよ。会えばね。」

 『働き小人レプラコーン』は信じられないといった顔をして、自分の師匠を凝視する。

 とはいえ今に始まったことではないと諦め、椅子の準備を始める。

 「あれ、今日は何かあったかな。」

 「今日は講義の日じゃないですか。そろそろ見習いの子達来ますよ。」

 「おっと、そうだったか。

 と、ノックの音が響いた。

 「どうぞ―。」

 『現実複製者リアルクラフタ』はカップを『働き小人レプラコーン』に渡し、黒板の方に向かう。『働き小人レプラコーンはティーセットを片付け、残りの椅子を用意し始める。

 やがて大人の魔女と子供の見習いが入ってきて、椅子に座る。

 そして、『現実複製者リアルクラフタ』は魔法に関する講義を始める。

 「さて、よく来ました。今日は何の話をしましょうか。」

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