3-EX アミーとレミ

 隠れ月の日の昼下がり、ロロとアミーは午前中にしそびれた買い物を終え、例のカフェショップで休憩をしていた。

 「今日も大量ですね。」

 「いつもの倍いるわけだしねぇ。腕がなるってものよ。」

 ロロが力こぶを作る真似をしてみせるが、アミーは呆れ顔だ。

 「それにしても、師匠のご友人がまさか『円卓の管理者バトレスオブラウンド』だったとは、驚きました。」

 「あらあら、言っていなかったかしら?」

 「初耳です。」

 「まあ、こういうのは聞かれないとどうしてもねぇ。」

 ロロはソーサーと一緒にカップを持ち上げ、少し香りを嗅いだあと、ゆっくりとカフェを飲む。そして、小さく笑った。

 「それにしても、『失礼な友人』とはねぇ。」

 「あ、あれは、その。まさか召喚獣サモニーになっているなんて思わず……。」

 「いえいえ、相手が誰であっても間違いを正すのは大事なことよ。まあ、礼節は忘れちゃいけないけれど。……そういえば、あの後どうしてボロボロだったの?」

 「あ、あれは、その……言わないといけませんか?」

 「気になるわぁ。」

 アミーは諦めたように嘆息したあと、話しだした。


 *****


 レミ……でしたっけ。実は、すぐに見つかったんです。師匠に言われて家を出たあと、探索の魔術でも使おうと思っていたんですけど、近くからすすり泣く声が聞こえて。声の聞こえる方に行くと、丸まっているあの子がいました。

 「ねえ、ちょっと、大丈夫?」

 手を差し出してそう声をかけたんですけど、私の方を見るやいなやあの子は走って逃げていきました。

 「あ、ま、待ちなさい!」

 慌てて私も追いかけて、うまく路地の行き止まりまで追い詰めることができたんですけど……。レミはそのへんの棒きれを掴んで何やらわけの分からない言葉を口ずさんだんです。

 「!」

 今考えたら詠唱だったんですね。そしたら棒きれから身の丈ほどもありそうな翼が生えて、羽ばたき出したんです。

 このままじゃ逃げられちゃう!そう思って、私は浮かび上がろうとするあの子の足を掴んで、一緒に飛び上がりました。

 飛び心地ですか?最悪です。飛び立ての鳥だってあそこまで上下しないと思いますよ。しかも羽ばたくたびに、だんだんあの子の手がずりずりと棒きれからずれていって、今にも落ちそうな感じになっていくんです。

 「ねえ、早く降りなきゃ、まずいことに。」

 「むり、です。降りられ、ません。」

 「は!?なんで?」

 「分から、ないんです。降り方。」

 話している間にもどんどん高度が上がって、代わりにあの子の手がどんどん棒きれの下の方になって、ついにはあの子は棒きれを手放したんです。

 「きゃあぁーーー!」

 「いやぁーーー!」

 そこから落ちるまではよく覚えてないんですけど、多分何か魔法を使って衝撃を抑えたんだと思います。

 ただその、落ちた場所が悪くて、木箱とか色々積まれていたところに落ちたので、あんなことに……。

 笑わないでください!とにかく、私もあの子も怪我はないみたいだったので、手を引いて連れて帰ろうとしたんですけれど、あの子は一歩も動こうとしなくて。

 「……帰るわよ。」

 「いや、です。」

 「なんで?」

 「エレノラに、嫌われました。私、生きていけません。」

 大げさな物言いをするものだとは思いましたが、あまり追い詰めるのも良くないと思いましたので。

 「あの人、別に嫌ってはいないと思うけど。」

 「でも、私、嫌われちゃいけないんです。」

 そう言ってもレミは首を振るだけで、段々とイライラしてしまいまして。

 「とにかく帰る!人に嫌われたくらいで死ぬならここにいたって死んじゃうんだから。」

 そのまま無理やり手を引っ張って帰りました。そしたらあの子、泣きながら笑いだして。

 「なんだか、エレノラみたいです。」

 「あんな人に――。」

 いえ、なんでもありません。

 「エレノラは、私の召喚獣サモニーで、いてくれるでしょうか。」

 「は?あなたが召喚士サモナーなんだから、そりゃそうでしょ。」

 「でも……。」

 あとは、まあご存知のとおりです。


 *****


 アミーはそこまで言って、カフェで喉を潤した。

 「まあ、こんな所です。面白くない話ですが。」

 「大変だったのね。」

 「ええ。おかげさまで。」

 ロロは微笑みを崩さずにアミーを見守る。

 「それで、レミちゃんはどうだった?」

 「どうって……私は好きになれなさそうです。『人』の割に魔法も大味でしたし。」

 「あらあら。でも話を聞く限り、あなたが思ってるよりもすごいと思うわよ?」

 「どうですかね。」

 アミーはフンと鼻を鳴らして、最後の一口を飲んだ。

 「さあ、それじゃあ帰りましょうか。腕によりをかけなきゃ。お手伝い、よろしくね。」

 「まあ、仕方がないですね。」

 ロロは立ち上がってアミーに手を差し出す。アミーはため息を付いて、その手を取って一緒に歩いていった。

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