3-2 魔法都市 ソコングロ=ディルーノ ―不和―

 今夜の空は魔女たちで大盛況だった。まあこんなきれいな月が出ていて、しかもお祭りの前夜とくれば当然だろう。

 「夜の空は魔女の空、か。」

 「なんです?」

 ほうきにまたがりながらつぶやくと、ハッピィに合図してレナが近づいてきた。ちなみに、レナみたいに他の生物に飛ばせてもらっている魔女はあまりいない。大体杖か箒か、何も持っていないかのどれかだ。

 「『昼の空は鳥の空、夜の空は魔女の空』って、昔からよく言ってたの。さ、ここよ。」

 街中の一角、ある民家が近づいたところで私たちは高度を下げた。


 レンガ造りで煙突のある、よくある二階建ての家の前で私達は下りて、ほうきとハッピィをしまう。

 「ここが、宿?」

 「古い友人の家でね。一応、あなたも顔を合わせているわ。」

 ドアの前で降り、ト、トントンと独特のリズムでノックする。すると、勢いよくドアが開き、エプロン姿のロロが出てきた。

 「いらっしゃい、遅かったわね。えーっとエレノラ、だっけ?そっちはレミさんね。私はロロって呼んでね。」

 「……『歌姫ディーバ』?」

 レナはどうやら名前ウィッチネームを呼んだらしい。

 「そう。ロロは歌の名人で、詠唱も歌ってするの。」

 「さ、さ、ずっと立ち話するの?どうぞ中に入って入って。」

 誘われるがままに中に入っていく。レナがローブ姿のまま入ろうとするので、ローブは脱がす。

 「招かれたときは、脱ぐものよ。マスター。」

 「ありがとう、メイド長。」

 中は壁中が本棚になっていて、窓とキッチン以外は本に囲まれていた。まるで研究熱心な魔術師の家だが、この本の大半は魔術書の類ではなく、物語本だ。

 「なになに、そういう関係なの?」

 ロロがお茶を渡してくれた。お茶を受け取ってダイニングテーブルの席に座る。しっぽが出せるよう、真ん中に穴が開いた椅子だ。

 「まあ、話すと長くって。」

 「私が、エレノラの召喚士サモナーです。」

 ちょっと誤魔化そうとするけど、レナが正直に喋ってしまった。ロロは目を丸くした。

 「えー、ウソでしょう?」

 わざとらしさまで感じるくらいの驚きように軽くため息をつく。

 「本当よ。私はレナの召喚獣サモニー。」

 「信じられない。ね、ね、シャルのカード姿、見せてよ。」

 「嫌よ。それに、私はエレノラ。」

 「良いじゃない。あなたの偽名っていっつも呼びにくいのよ。」

 「前のよりましでしょ。」

 と、レナが立ち上がって私の肩に手を置いて、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


 その笑い方が、私の中の古い記憶をくすぐって。

 それは、あの子じゃない。別の。

 そこで、私の意識が落ちた。

 早鐘を打つような心臓の鼓動の感覚だけを残して。


 *****


 次に意識が戻った時には、テーブルの上にはごちそうが並び、ダイニングには客人が増えていた。

 その代わりに、レナがいない。

 気付けば、知らない景色。楽しそうに話す人の声。顔に浮かぶ下向きの半月。

 声が、音が、世界が遠くなる。耳に入るものが意味をなくし、目には別の景色が覆い被さってくる。

 ああ、頭が痛い。

 その痛みが意識を現実に戻してくれる。どうも召喚サモンを解いてカード化されていたようだ。

 ということは。振り返ればレナがいた。

 理解をしても、思わぬ形で飛んだ数分の記憶のズレが、責め立てるように心の中に湧き上がる。

 その気持ち悪さをごまかすように、私はテーブルをドンと叩き、立ち上がってレナを怒鳴りつける。

 「ちょっと!最初に言ったわよね。気が付いた時に違う風景が見えるのは気分が悪いって!今私がどんな気分か分かる?ねぇ!」

 レナは口をパクパクさせて何か言おうとして、でも言葉にできないようだ。構わず続ける。

 「最悪よ。この景色。どんなに良いものでも、不意打ちを食わされた後じゃあ何にもよくない。ねぇ、分かる?分からないでしょ。だって――。」

 「シャル。」

 肩に手を置かれた。そっちを見ると、ロロが首を振っていた。レナの方を見ると、涙目になってこっちを見ていた。

 「……ごめんなさい。」

 絞り出すようにそれだけ言って、レナは飛び出していった。それで、ようやく頭が回ってきた。

 「レナ!待って!」

 追いかけようとすると、ロロに止められた。

 「アミー、頼むわ。」

 アミーと呼ばれた少女はため息をついて、席を立った。

 「師匠のご友人たちはずいぶんと失礼な方なんですね。」

 返す言葉もない。そのままアミーは外に出て行った。きっとレナを探しに行ってくれたんだろう。


 レナを追いかけて行くアミーの背を見送って、私はロロに向き合う。

 「ごめんなさい、ロロ。折角準備してくれたみたいなのに。」

 「こっちこそ、変なこと頼んじゃったみたいでゴメンね。でもあそこまで取り乱したシャル、久しぶりに見たわ。」

 そう言われて、十年前のことが、さっき見た幻が頭をよぎる。


 突然意識が落ち、目の前の風景が一変する。倒壊した陣、倒れて動かなくなった人々、そして唯一立ち上がっている小柄な女。顔は逆光で見えなかったけど、笑っていることだけはわかった。

 まるで物語に出る悪魔のような、人を馬鹿にするような。


 首を振って過去の幻影を振り払う。そして自分のさっきの愚行を思い出す。まるで成長していない。

 「あー、最悪だわ私。」

 大きくため息をついた。ロロが止めてくれなかったら、本当にひどいことを言いそうだった。保護者ぶってるくせに、全然大人になれてなかった。

 「戻ったらちゃんと謝ってあげなさいよ。」

 「分かってる。でも、レミは戻ってきてくれるかな?」

 「大丈夫よ。あなたの選んだ子でしょう?きっと強い子よ。それに、うちのアミーだって、何でもこなしてくれる、いい弟子なんだから。」

 「ありがと。」

 ロロは昔と変わらない、優しい微笑みを向けてくれた。

 それを見て安心していると、少しいたずらっぽい顔に変わった。

 「そういえば、あの子、ほんとはレナっていうの?」

 「え、何で。」

 顔が引きつってしまう。それを見てロロがウフフと笑った。

 「あなた、さっき叫んでたわよ。相変わらず、脇が甘いのね。」

 わき腹をつんつんつついてくる。抵抗していると、ノックの音が響いた。

 ロロがドアを開けると、なぜか少しぼろぼろになったレナとアミーが入ってきた。 

 「どうしたの、あなた達。」

 二人はばつが悪そうに目を逸らした。

 「えーっと、色々ありまして。」

 「レミ。」

 私が声をかけると、レミはびくっと体を縮こまらせた。

 その反応を見て、勇気を無くしてしまった。やっぱり、私はダメかもしれない。

 「……ご飯にしましょう。折角のごちそうだし。」

 ロロは私のことを横目で見て、ダイニングの方に戻っていく。

 「さあ、温めなくっちゃね。」

 そして歌い始めた。魔法の込められたロロの歌は、歌詞はないけど伝わるものがある。

 なんとなく責められているように聞こえるのは、私の気持ちがそうさせるんだろうか。


 *****


 料理が温まったところで、私たちは席に着きなおした。ただ、少しの席替えはあった。私はロロの隣に座り、レナはロロの向かい。私の向かいはアミーが座った。

 「さあ、改めて自己紹介しましょう。私はもういいわよね。」

 ロロはアミーの方を向いた。アミーは呼吸を整えたと思ったらこちらに頭を下げた。

 「あ、あの。先ほどは生意気な口をついてしまい失礼しました。」

 「え、ああ。まあ気にしてないから。」

 元々は私が悪いんだし。とりあえず顔を上げてもらって、改めて紹介してもらう。

 「『歌姫ディーバ』の一番弟子、アミーとお呼びください。」

 アミーは優雅に挨拶をした。結構良い所の出なのかもしれない。

 よく見ると、昼にロロの後ろに隠れていた子だ。昼に比べると少し紅潮している。……まあ、色々あったからな。

 「アミーはこう見えてとってもすごい魔法使いなのよ。三年で『人』になって。」

 アミーはちょっと照れくさそうな顔をした。二つ名は『魔法少女マジカルガール』か。

 「よろしく、『魔法少女マジカルガール』。私はエレノラ。」

 「アミーと。光栄です、偉大なる『円卓の管理者バトレスオブラウンド』。」

 どうやらこの子も二つ名ウィッチネームが好きではないタイプらしい。まあ、私もレミも嫌いってわけではないけど。しかし偉大なると来たか。いったいどんな尾ひれが付いたらそうなるんだ。

 「エレノラの方が呼びやすいでしょ。」

 何か言いたげだったので、にっこりと笑みを返して封殺する。

 が、聞かなかったようだ。

 「そんな、あなたの無機物を召喚サモンするという発想は天才的です。それでその名を受けたのですよね。」

 「あー、まあそうだったかな。」

 見られている気がして、レナの方をちらっと見るが、レナはこっちを見ていなかった。

 「ご謙遜を。あなたの発想が、行き詰っていた召喚サモンの研究を十年は進めたんですよ。」

 「まあ、そうはいっても、そもそも召喚士サモナーをあまり見ないけれどね。」

 このまま続けさせるとそのうち顔から火が出そうだ。話題を変えよう。

 「ところで、この子の名づけはロロ、あなたが?」

 「流石、よく分かったわね。」

 「趣味でしょ。弟子に押し付けるのはどうかと思うわ。」

 「良い名前でしょ、ねえ?アミー。」

 ロロはアミーの方を見るが、アミーは視線を合わせない。弟子の様子に小さくため息をついて、代わりに正面のレナの方を向いた。

 「まあいいわ。気を取り直して、と。あなたの自己紹介が聞きたいわ。」

 「え、と。レ、ミって呼んでください。」

 「『ひよっ子ビギナー』ってことは『人』なのよね。いつ魔女になったの?」

 レナは指を折って数えた。

 「明日で、十日です。」

 ロロとアミーはとても驚いたようだ。アミーに至っては席を立ってしまっている。

 「じゃあ、最初の二つ名ウィッチネームから『人』なの。すごいわねぇ。名付け主は?シャルじゃないんでしょ。」

 エレノラだと言おうと思ったが、今は立場が悪い。ここは受け入れよう。

 「『隠者エレミータ』っていう変なおじいさんだったわ。そいつが師匠。」

 「『隠者エレミータ』……聞いたことないわねぇ。」

 と、アミーがレナに突っかかった。

 「魔女に大切なのは経験。どんなに早く『人』になったって、それがなきゃ意味ないんだから。」

 アミーは鼻を鳴らした。レナはぽかんとアミーのことを見ている。その光景を見て、ロロはフフっと笑って、私に耳打ちしてきた。

 「あの子、アカデミアでは同年代で一番だったのよ。だから、自分よりすごい子っていうのが気に入らないみたい。」

 「聞こえていますよ、師匠。」

 アミーはそれだけ言ってまたそっぽを向いた。そして黙ってご飯を食べる。

 ロロは微笑みながらそれを見ていた。いつものことなのだろう。

 「さ、さ。私たちも早く食べましょう。自信作なんだから、また温めるのはいやよ。」

 確かに、ロロの料理はいつも美味しく、今日のごちそうも温かみを与えてくれる、そんな料理だった。


 *****


 料理を食べ終え、レナとアミーが眠った頃、私とロロは積もり積もった話を肴に果実酒を飲もうということになった。

 「ところで、あなた最近寝れてる?」

 開口一番に聞いてきたのがそれで、思わず吹き出しそうになる。

 「ちょ、ちょっと。そんな心配させるような歳じゃないでしょ。私もあなたも。」

 「でも、さっきも言ったけど昔のあなたみたいだったから。目を覚ますのが怖いって言ってた時の。」

 それは……私が一番ひどかった時の話だ。何度も同じ夢を見ていたあの頃。


 十年前、戦争が終わる最後の島で、私は一瞬のうちにほとんどすべてを失った。師匠も、戦友も、大切に思っていたたったひとりの妹も。

 気を失っている内にすべてが終わり、目が覚めると何もかもがなくなっていた。

 そして目の前にあったのが『最強』の魔力を持つ少女の姿。

 ほとんど顔は見えなかったけど、笑っていることだけは分かった。

 顔をよく見ようとした所で島から追い出された。たぶん、その『最強』に。

 次に気がついた時は後方の別の島で治療を行っていたロロの腕の中。そこで『最強』によって物理的に分断されたせいで戦争が終わったこと、そして私の島から帰ってきたのは私だけだと言うことを聞かされた。

 それ以来、しばらくの間、目が覚めるたびに最後の島で見たあの景色を幻視した。

 打ち崩れた瓦礫の山、そこに潰されてぴくりとも動かない妹、その上で嫌な笑みを浮かべる『最強』の姿を。


 私は首を振ってロロに答える。

 「大丈夫。覚悟してればそんなに悪い気持ちにはならないから。」

 「それならいいけれど……。」

 まだどこか心配している風ではあったけど、ロロはその気持ちといっしょにお酒を飲み込む。

 「……それで、どうして帰って来たの?あの子の観光ガイドってわけではないんでしょう?」

 いよいよロロが本題を切り出してきた。

 「まさか、まだ探しているの?あなたの仇を。」

 「違う違う。探してはいるけど、ここに来たのはレミのため。」

 私はグラスを置いて、手のひらを仰向けにしてテーブルの上に置く。

 「記憶を元に、彼の姿を見せたまえsodic qomovo ali vasciato。」

 手のひらから例の、レナの記憶にいた男の姿が出る。

 「こいつを探してるんだけど、何か知らない?」

 ロロは眼鏡をずらしながら男を凝視する。

 「うーん、知らないわねぇ。誰なの?」

 「レミの過去を知ってる人。あの子には記憶がないの。」

 「そう、記憶が。」

 何か合点がいったような顔をするロロ。出てきた男の姿をつんつんいじる。

 「それじゃあ、これに会えたら探し物は解決?」

 私は首をかしげる。

 「どうだろうね。正直、レミには直接会わせたくないかも。」

 レナの記憶を見た時のことを思い出す。湧き出た感情と、レナの反応。どう考えても感動の再会ってわけにはいかない。

 「でも、多分会わないとレミの記憶はわからないまま。ねえ、どうしたらいいと思う?」

 「そうねぇ。そもそもあの子は過去を知りたがっているの?」

 「そりゃあそうよ。そのために魔女になったのよ。」

 「今は?」

 ちょっと言葉に詰まる。別に、聞いた訳ではなかったかな。

 「多分。だって、それが十日前の話で、そんなにすぐにはやりたいことって変わらないでしょ?」

 「レミはそれに会いたいって?嫌な思いをすることになっても?」

 「……聞いてない。」

 ロロは頬杖をつき始める。

 「あなたはきっと自分の探し物も伝えていないんでしょう。」

 「だって、聞かれてないし。」

 ついにはため息までつかれる。

 「あなた達に必要なのは、まず話し合いね。あなたはあの子が本当にしたいことが何かを知らない。あの子もきっと、あなたがなんであんなに怒ったのかも知らない。もっとお互いの事話し合わなきゃ。」

 ロロはグラスをもって、私の方に傾けてきた。

 言われてみたら、二人で自分のことを話し合ったのは旅立つ前の日くらいだった。その後は、魔女のこととか、旅のこととか、そういう一般的なことばっかりだった。

 ひょっとするとレナは私のことを全く知らないのかもしれない。

 レナのことだって、過去のことは分からなくても、今の気持ちは聞けば分かる話だ。

 「そうかも。そうする。」

 私のグラスをロロのグラスに当てる。そして一緒にお酒を舐めた。


 ボトルが一本空いて、ロロが奥から追加のボトルを持ってきた。

 「それにしてもレミに相当お熱みたいねぇ。無二の親友としては、ちょっと妬けちゃうな。やっぱり、似てるから?レミーナに。」

 慌ててグラスを落としそうになった。

 「妹に?まさか。どこが似てるのよ。」

 「髪色、目の色、それに雰囲気も少し。だから『レミ』って名乗らせてるんじゃないの?」

 確かにあの子の髪は黒系ブルネットだし、目の色も私と違って濃かったけど。

 「まさか。確かに私が決めた偽名だけど、本名に似てたからよ。それだけ。」

 そうだとしたら、そんなの最低すぎる。死んだ人の面影を重ねるなんて。

 「まあ、どっちも同じくらい可愛いっていうのは認めるけどね。」

 冗談めかして一口飲む。

 「シスコン。」

 「なんとでも言いなさい。」

 肩を上げて、話を流す。そして、お酒をまた舐める。

 「それに、あの子の才能は本物よ。今ならまだ勝てると思うけど、もうすぐ私じゃ手に負えなくなる。ちょっと磨くだけで、全然違う輝きを放つ。そういう子よ。」

 「輝かせるのはあの子のため?それとも自分のため?」

 ロロは意地の悪い笑みを私に向ける。私はお酒を飲みほして、またグラスに果実酒を注いだ。

 「何でもお見通しなのね。」

 「親友ですから。」

 「私、もし追われる身になったら最初にあなたを殺すわ。口封じしないと。」

 「おおこわ。」

 またグラスを当てて、お酒を飲んだ。

 「それじゃあ、全部終わったら?」

 「え?」

 「あなたが自分の目的を果たしたら、そうしたらあの子はお役ごめんってこと?」

 考えたことがなかった。たしかに、そうなると私があの子の召喚獣サモニーでいる理由はない。

 「でもレミの記憶を取り戻すって約束したから。それまでは。」

 「それも済んだら?」

 ずいぶんと食い下がるな。グラスの中身をくるくる回しながら考える。

 「……どうだろ。今は離れたくないなんて思ってくれてるみたいだけど、記憶を取り戻せばレミも全然違う考えを持ったりするだろうし。それに人を召喚獣サモニーに持ってると知れたら、いい感情を持たない人もいる。そう考えると、まあ召喚獣サモニーはやめるんだろうなーって。」

 ふと顔を上げると、ロロが何か言いたげな顔でこっちを見ていた。

 「……レミの意見も聞きながら決めます。」

 「よろしい。」

 満足げにロロは視線を外した。ロロのグラスが空になったので、お酒を注いであげる。

 「でもあの子の召喚獣サモニーになって後悔はないわ。多分、これからどうなっても。ほんとに。」

 「言う相手が違うんじゃないの。」

 「そうね。分かってる。」

 私は立ち上がってロロのコレクションに目をやる。不用意には触らない。これが彼女の逆鱗だ。

 「まあ、その男は私の方でも調べておくわね。」

 「ありがとう。よろしく頼むわ。」

 四年もたつとコレクションもかなり増えているな。よく見ると本の奥にさらに本がある。

 「それで、あなたの探し物は見つかったのかしら?」

 「全然。『彼女の居たところはすぐわかる。』っていうけどそんなもの何にも。」

 「『何も残らないから』ね。こっちでも『歩く災厄』の話は聞かないわね。」

 「もしかしたら、もう死んじゃったのかもね。」

 そうだとしたら、一緒に私の頭の中からも消えて言って欲しい。

 ロロがグラスを持ちながら近づいて、本を一冊取った。

 「残念ながら、名前ウィッチネームは残ってるわ。読む?」

 「いい。傷つけちゃまずいでしょ。」

 「大丈夫。これは写本だから。最近は原本を地下に置くようにしてるの。」

 地下?そんなものあったっけ?見渡しても、下り階段は見当たらない。

 「隠してるの。最近アミーがよく来るから。あの子、隙あらば私に読書を辞めさせようとするのよ。」

 「それがいいわ。あなたは読み過ぎよ。」

 「魔女に魔力が満ちているように、私には物語が満ちていないと死んじゃうのよ。」

 よく言うわ。ロロの持ってたグラスを取ってそこからお酒を舐める。

 「シャル、明日はどうするの?」

 「そうねぇ、折角のお祭りだし、レナと一緒にって思ってたけど……。」

 喧嘩中だから誘いにくい。と、ロロがニヤニヤとこっちを見ている。

 「また『レナ』って。」

 「良いじゃない、あなたはもう知ってるんだし。ちょっと酔ってるのよ。」

 「早く仲直りしなさいよ。そうしないと、どんどん声かけづらくなるわよん。」

 ロロは私のグラスを取り戻し、お酒を飲む。

 「ご忠告アリガト。そろそろ寝るわ。」

 「まだまだこれからじゃない。」

 そういうが、窓から見える動き月ももうだいぶ落ちてきている。

 「しばらくいると思うから、また明日ね。」

 ロロに挨拶をして、階段を上がる。二階にはベッドが四つ用意されていて、レナとアミーが一つおきに眠っていた。レナのベッドに近づいて、レナの顔を見る。穏やかな眠り顔なのは、ちょっと救われる。

 それと一緒に、この安らかな顔がもう自分に向けられることがないと思うと、少し怖くなる。

 「ごめんなさい。明日、ちゃんと謝るから。」

 そう呟いて、レナの隣のベッドに眠った。

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