3.春風スフレ

「さあ、これは焼き立てが美味しいのよ」


 テーブルで待つ僕の目の前に、母さんはかまどから出したばかりのココット容器を置いてくれた。こんがり黄金色に焼けた表面はふっくらと膨らみ、今にも容器からあふれ出んばかりだ。


「春風入りだから、食べるときは気を付けるのよ」


 期待に胸を膨らませて、ふんわりと膨らんだ表面にスプーンの先を入れた。


 ぶわっ!

「うわああっ!?」


 開いた裂け目から吹き出したのは、風。

 僕の顔の目の前を、かすかに桜と太陽の香りが混じった「春風」が吹き抜け、前髪を揺らした。

 

「どう? 春風を閉じ込めた季節のスフレは」


 スプーンを口に運ぶ。くしゅ、と口の中でも風が吹く。

 甘い桜の香りと香ばしい太陽の味が広がった。


:::

2016-04-02

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お題:風

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