第6話 港へ、再びc

 その夜、京司はどうにも眠れずに、甲板に上がってきた。

 さーるが、甲板の隅で寝ているマッシュの上で、すーすー寝ている。

 ふと、何時だろうと、モビの画面を灯した。

「うわ、眠くないわけだ」

 こっちに飛ばされてまる丸一日半、三十六時間くらい経つつもりだった。

「やっと二十六時間かよ」

 そういえば、朝から夕方までなにも食わずに動いていたけど、平気だったことを思い出す。

 この世界の一日が地球と違うことなど、当たり前のはずだった。

 しかし、あまりにゲームや小説の異世界じみていたおかげで、逆に、そんなことさえ見落としていた。

 だとすると、身体が浮くような感じがするのは、重力が弱いからに違いない――と、京司は思う。

「月面みたいにふわふわしないけど」

 と、月の無い夜空を見上げると、少し霞がかかった星空は相変わらず綺麗だった。

「晴れたら、どうかな」

 さぞかし見応えあるだろう、と全天を見渡す。

「へえ……星座以外、あまり地球と変わらないな」

 不思議と違和感を感じない。その原因の一つが、斜めに居座る天の川のような帯だった。

 星があり、重力があれば、銀河の一つもできるわけだ。

 京司は、ごく当たり前と納得した。

 そんな星々のなかに、ひとつ見たことがない――正確には地球からでは肉眼で見えないものを見つけた。

「でっけえ。これは、学校の奴らに見せたいな」

 地球から見る月の何倍もにも広がる、大きなガス星雲だった。

「さあ、寝るか。朝まで、どれだけあるか知らんけど」

 慢性的時差ボケ確定。

 京司は軽く目眩を覚えながら、寝床に戻ろうと回れ右した。

「なんだ、モリタも勘づいたのけ?」

「オレ?」

「アレ、さ」

 アンゼが、水平線の彼方を指す。降りてきたのとは、別の方角だ。

 が、京司にはサッパリなにも見えなかった。

「たまたま、起きてたのか。ま、いっけど」

「なに、が?」

「黒いのが、仲間と挙ってこっちに向かってる。夜明け頃には街に着くぞ」

「大変だ、避難しないと!」

 慌てる京司を、アンゼが「おいおい」と宥めた。

「ボクがなんで逃げんのさ。さ、やっつけに行くよ」

「やっつける!? 飛べないのに?」

「浮いてくだけさ。なぁに、独立派の奴らなんて、どれだけ来ようが負けないぞ。それにな」

「それに?」

「モリタが一緒だ」

「オレ?」

「ホレ。翼、出したら背中に乗って。信頼出来る相棒と居れば、ドラゴンは強くなれる」

「分かった。信頼してるよ、オレも」

「よぉし、行こっか」

 アンゼは見えない空間に折りたたんだドラゴンの姿を開いた。

 そして、のりやすいように、ゆっくりと屈んだ。

 京司は、黒いドラゴンよりふた周りは大きな、赤いドラゴンの背中に、何とか登った。

 ばさり。

 ばさり。

 あっという間に空の上だ。

 どこまで続くか分からないその夜空に、敵の姿を見つけた。

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