第6話 港へ、再びb

 京司たちの一行は、メンバーを一名増やして港に戻った。

 いつの間にか日が暮れて、港の街灯が点いている。

 無事、グッラのいる施設に辿り着いたが、さーるが一匹、京司の背中にへばりついてきてしまった。

 最初になついてきた、小さなさーるだ。

 負傷したガエンは、さーるたちに元気を貰って何とか辿り着いたが、驚いたグッラに医者を呼ばれ、そのまま入院させられてしまった。

 ヤウレとユレは疲労とかすり傷だけ。

 アンゼも流石にくたびれたのか、道中「歩くのめんどい 」と言って手のひらサイズの小さな翼を出して、ふわふわと空中を移動してきた。

 マッシュは至って元気だ。とにかく元気だ。

「通信局、直すどころか、あんなことに」

 京司は済まなさそうにグッラに謝ったが、「こちらこそ済まない」と反対に頭を下げられてしまった。

「最近物騒だったのは確かだったが、まさか独立派の連中が大挙そてくるとは。とにかく、全員無事に帰れてよかった」

 グッラはそう言うと、仲間に食事の用意を頼んだ。

「なんであれ、ソラノミヤに連絡がついたんだ。今日はメシ食って休んで欲しい」

 出された食事は物資不足で質素だったが、一日何も食わなかった京司には、何よりのご馳走だった。


「食ったぁ。んまかったな、モリタ!」

「あ、うん。美味かった」

「お、お!」

 食事の後船に戻ってきた二人だが、いまだ、京司の背中に小さーるがへばりついたままだった。

「こらー、重いだろ。な、モリタ?」

「重いんだけど、なんだか癒されて……」

「あ、ずるいぞ、さーる。ボクも癒して」

 口を尖らせ引っ張るアンゼに、さーるは言い放った。

「いーやっ!」

「……嫌、された」

「ん、ぷははっ! 面白いやつ!」

 意図などないさーるの見事な返しに、京司は思わず吹き出した。

「お? おー」

 さーるは、なにか悪いことしたと感じたのか、アンゼの所にひょいと飛び移ると、ぺとんとくっついた。

「モリタ。キミ、はじめてまともに笑ったな」

「はじめてってな。来てからまだ、一日半かそこらだぞ」

「そだなー。なんでか、一緒にいると忘れるっけ」

 二人は甲板にならんで、昨日落ちてきた方の夜空を見上げた。

 星は沢山見えるが、天気のせいか少し霞んで見える。

「一日半、か。どうなってんだか、この異世界は」 

 京司は、いま五つくらい訳が分からなかった。

「やっと、考えられそうだし、聞けそうだ」

 京司は知っている星座ひとつない空から視線をおろし、アンゼを見た。

「なにさ?」

 どこら聞こうか少し考え、京司は口を開いた。

「船って、何?」

「飛ぶのに、必要なもの」」

「さっき飛んで……」

「浮いてただけ」

「いや、船で降りてきた時」

「当たり前ってば。船が無事なら、もうっ!」

 アンゼは、悔しそうに空に拳を振り上げ、その先でバシンと青白い閃光を迸らせた。

 くっついていた小さーるがびっくりして飛び降り、トントンと京司の足元へ。

「おっと、危ない」

 拳を引っ込め、いやぁと苦笑する。

「本当に自由に飛べる“おとな”のドラゴンなんて、めったにいないんだ。ま、モリタがどっかから来たんなら、知らないさな?」

「知らなかった。でもそれこそ、何とかして、アレを直さないと」

 背後の屋根下にある、壊れたエンジンを気にかけた。

「本国に連絡ついたから、直しようもあるさ」

「ソラノミヤって、本国?」

「本国の新しい街、かな。ドラゴンが居て、船もある。船……」

 アンゼが舷をとんとんと叩き、見ていた空のもっと先に想いを向けた。

「ボクみたいな若い、ていうか”こども”が、そうバンバン飛べるわけないっからさ」

「船があったら、若いドラゴンも?」

「そう。船があれば。船には飛ぶための魔法がたくさん詰まってる」

「魔法、か」

 京司は魔法って何だろう、と改めて考えるが、答えは出なさそうだった。

「でな、モリタが来てから、船もたくさん作られてさ」

「そうだ!」

 何度も出てきた別のモリタ、その存在だ。

「モリタのこと!」

「もう、なんさ、いきなり!?」 

 京司は、今こそ確かめたかった。

「いつから、ここに?」

「意味わかんないぞ」

「そのモリタが現れてから、何年くらいか知りたいんだ」

 京司に問われ、アンゼは暫く考えた後、短く答えた。

「ネンて、なんだ?」

「え? この星の公転周期を……」

「サッパリ、わからん」

「なんて言えばいいかな」

 誰でも知っている、と思った言葉の意味が通じない。

あらためて、距離はここが異世界と思い知った。

「なんて言うか、この星が、母星の周りを1周するのにかかるのが、一年でさ」

「それならわかるぞ」

 アンゼは、なるほどと手を叩いて、答えた。

「モリタがここに来て、一年ちょっと、ていうことだな?」

「いやそれは」

 自転周期、と言おうとして京司はやめた。

 換算すればいいこと、ともう一度聞いてみる。

「それで、何年くらいかな」

「ははっ、分かるわけないっさ! むりゆーなー」

「だよなー、わはは」

 京司は笑って誤魔化すしかなかった。

 いちいち数えてるわけが無い。

「あっちのモリタなら、嫌でもいつか会うことになっからさ」

 噛み合わないようで、アンゼは京司の想いを察していた。

「楽しみに待つか」

「それでいいさね。さ、寝んよ。明日は、着替えを調達しないとな」

「そうだな。おやすみ」

「おやすみ」

 そしてアンゼは船内に入りながら、一言付け加えた。

「モリタと会いたければ、ボクから離れちゃダメだぞ、モリタ」

 アンゼはつんつんと天を指して笑った。

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