第5話 襲撃・迎撃a
「しっかし、群れてんな」
アンゼは、どうしてくれようかと見回しながら、五メートルほど飛び上がった。
「壁の外にもいるぞー」
「なんだと!? これを三日も、どうしろってんだ!」
ガエンが見上げながら声を上げた。
ユレが横で「ひきこもる」と、怯え気味だ。
「俺に、考えがある。ちょっと、手出ししないでくれないか。マッシュ、おいで」
言葉では「おいで」と言いつつ、マッシュを押し出しながら京司は外に出てきた。
「やっぱり、か。さっきは咄嗟にやっちゃったけどさ」
すとん。
ぼてっ。
京司マッシュが腰を落とし、隣でマッシュが真似をした。
「飛び道具、用意してください」
ぼそり。後ろのガエンやヤウレに声がかけられる。
察した皆が、静かに武器を構えた。
「ありがとう。ゴブ……ちびたちは敵じゃないんで。敵なら、重装なんとかが、紛れ込んでるはず」
静かに「承知」とヤウレ。頭上でアンゼも頷いている。
「もう少し、まって」
何か、空気が変わっていた。
「うん、つかめたかな。マッシュ、どう思う?」
「くゎ」
「だよな」
巨大ニワトリと会話のようなナニカを交わした京司は、ゆっくり手を広げて、
「ほれ、こっちさこ。おがなくねぞ?」――さあ、こっちへおいで。怖くないよ。
と、尻尾ゴブリンに向けて声をかける。
地元訛り全開で、だ。
だがその声に反応し、尻尾ゴブリンたちが互いに少し顔を見合わせ、その一部がゆっくりと近寄ってきた。好奇心半分、驚き半分といった様子だ。
残りは困ったり、殺気だったりしてその場から動かない。
おかげで動きが入り乱れてしまった。
「そうそう、おっかなくねえど」
「くぁ」
そんな様子を見ながら、京司(となぜかマッシュ)は、優しい声をかけ続けた。
近寄ってくる尻尾ゴブリンたちが、少しずつ増えていく。
混濁気味なその流れの中に、数か所の妙な隙間ができていた。
「ああ、あの隙間だね」
ヤウレがささやくように言い、京司が無言で頷く。
目くばせ一つ、二つ。
ガエンの投げ斧、ヤウレの矢、ユレの放った無音の光が何も見えなかった空間に突き刺さり、金属の甲冑をまとった重量感のある姿がゆらゆらと現れた。
「確かに、騎士だ。うん」
さっきは瞬殺してしまったので分からなかったが、その姿は、馬こそいないものの、ゲームや物語でおなじみの、全身を甲冑で固めた騎士そのものだった。
そしてまだ健在で、今度は長い槍を持っている。
「おう!」
重騎士達は掛け声と共に浮かび上がると、馬なと要らぬとばかりに宙を蹴って、突っ込んできた。
一人をガエン、もう一人をヤウレがなんとか受け止めたが、三人目が京司に向買って来た。
「モリタ!」
頭上からアンゼが叫ぶ。
京司は咄嗟に体を捻って躱したが、その重騎士は止まることなく背後に飛んでいった。
マッシュが嘴で突いて弾こうとしたが失敗、重騎士は勢いを保ったまま通信局の小さな建屋に飛び込んだ。
「通信局が!」
叫ぶヤウレをよそに、「ゴン!」と建屋から鈍い音が響く。
そして、爆発した。
甲高い爆音と光、僅かに遅れて煙が立ち込める。
電気火災特有の、どうしようもなく嫌な臭いがする煙だ。
その臭いに尻尾ゴブリンたちは大混乱を起こして散り散りとなって逃げ出し、不細工ワニや他の相手も近づけなくなった。
「くっさ……デカいのは、ボクにまかせて!」
臭いに驚きつつも、アンゼは降りてきて立ちはだかった。
残りの重騎士は仲間の爆発に目もくれず、ガエンとヤウレ相手に槍を振り回している。
どういう原理か、これも魔法なのか。膝から腰くらいの高さに浮き上がり、空中を走り回るように攻撃を繰り出す。
「クソっ! こいつら、魔法じゃないと効かねえみたいだ」
ガエンはそれを相手に互角以上にやり合っているかに見える。が、いくら大剣で切りつけても効き目がないようだ。
その反対でヤウレがユレと共闘している。ヤウレが盾と片手持ちの剣でうけとめ、ユレが光線のようなものを手から放っているが、なかなか当たらない上に、一度放つとしばらく間ができてしまう。
「強い、な」
さっきは運良く倒せたが、異様にタフな強敵だ。
京司は弱点が無いか見てみたが、そう直ぐに分かりそうにない。
だが、躱せないほど俊敏でも剛腕でもなさそうだった。
あの飛ぶような動きさえ止めれば、ユレの放つ光の矢――おそらく魔法、が有効打となると京司はみた。
幸い、他の相手はアンゼが捌き切っている。
「マッシュ、今軽くしてやるから、あっちを蹴飛ばしてやってくれ」
京司はマッシュの荷物を下ろし、けしかけた。
「くぁわ!」
「うりあ!」
重騎士はその動きに気が付き、ナイフを抜いて投げつけてきた。
が、ナイフはマッシュのふかふか羽毛を少しだけ切り取って何処かに飛んでいき、直後、強烈な“ただの蹴り”が浮いている重騎士の向こう脛に直撃した。
「くひゃっ!」
相手の重さにマッシュはゴロンと弾き飛ばされたが、重騎士も脚をはねあげられる形になり、半回転して頭から地面に墜落した。
それでもダメージは少ないのか、槍を杖代わりにして直ぐに体制を整える。
だがユレにとり十分な時間が確保出来た。
「ライ、ハッ!」
掛け声か呪文か、今までにない圧のある声と共に、バチンと閃光が迸る。
「ぐばっ、ごっ」
かなり効いたのか、重騎士はうめき声を上げ、立ち上がりきれずに倒れ込む。
そこに「ライ、ハッ!」ともう一撃。
それがトドメとなり、動かなくなった。
残りあと一人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます