第4話 通信局c
「何も、殺すことは」
「ははっ、ご自分も、見事に仕留めてるじゃないですか」
かるく笑い飛ばしたヤウレの視線を追うと、腹に一発お見舞いした尻尾ゴブリンが、その場で動かなくなっていた。
「殺した、俺が!?」
京司はくらりと意識が遠くなったが、何とか持ちこたえた。
「ありゃ? モリタは何か殺したこと無いのけ」
アンゼは意外そうに訊いた。
「そんなことは、ないけど。畑を荒らす、虫やケモノは退治していた」
母がたの爺さんの畑で、害虫とか、ネズミやモグラを殺したことなら、何度もある。時には、罠を仕掛けての猪捕りも手伝った
だが、それとこれとは、別だと感じた。
「ヒトは、はじめてだ」
「ヒト? こいつらが? 似てなくもないけっど」
不思議そうに、アンゼは尻尾ゴブリンの死体を見た。
「こいつら、一応動いて喋って、道具も使うがただのケダモノたぞ」
「ケダモノ?」
恐る恐る、京司は死体を触った。
妙にひんやりしている。まるで蛇だ。
「ま、ヒトでも、こう露骨にに襲ってきたら、タダじゃ済まんし」
ヤウレが汚れた剣を見て言った。血とは少し色の違う黒っぽい汚れだ。
「さっきは間違いなく、これと違う気配を感じた。まだ、いるはず」
京司はポソりと言って目を閉じた。
「どした? あぁ」
アンゼも、察して耳を済ました。
研ぎ澄ます。
音はしない
だが、感じた。
「そこだ!」
当たれ、と感覚を信じて握った物をゲートの左端に向けて投げつけた。
実質的ただの電池パックで武器としては軽すぎる。だが、当たれば目印くらいにはなるはずだった。
投げてから刹那二つ。
突如回りの空気がかわり、伸ばした手の先に何かが走った。
バスッとも、ギンともつかぬ、重たく金属的な音が響き渡り、迸る青白い光に辺りが照らされた。
焦げ臭い。
落雷か。いや、雲はない。
投げた物に、そんな電気は溜まってないはず、いやそもそもこんなことはあり得ないはずだ。
だが、投げたものは何事もなく地面に転がり、その先で金属のロボットのような物が、煙を吹いて倒れていた。
「ヒュー、お見事。一発じゃないか」
ガエンが口と手を鳴らし、素直に称えた。
「なんだ、こいつは?」
一体どこから湧いた。
と、倒れた相手をよく見ると、中に何者かが入った甲冑のようなものだった。
中に居た者がどんな姿だったかは、もはや分からない。半ば溶け落ちるように焼け爛れた甲冑と共に、消し炭のようになっていた。
さっきとは逆に、京司は多少の疑問のこそ感じたものの、驚いたりはしなかった。
むしろ、明確に敵を倒したという実感の方が大きい。
既視感すら感じていた。
「見たこと、無いな」
尻尾ゴブリンみたいに、ゲームや小説でよく見る姿ではない。
「独立派の、重騎士け? 普通は見ないもんな」
アンゼが、焼け甲冑を見下ろしながら、訊いた。
「そう。間違いなく」
とユラ。「こんな所にまで」と、ガエンが続く。
「以前からイブキに居るらしいことは言われてたが、港の近くに、直接出てくることなかったのに」
どうやら、京司より、事情を知ったヤウレたちの方が驚いていた。
「通信局の前まで来てしまってる。だけど」
ユラが建物を見上げ、
「嫌な予感が止まらないさね」
アンゼが翼も出さずに壁の上までふわりと飛び上がって当たりを見回した。
「うーん、みただけじゃ分からん。モリタ、分かるか?」
「分からないな」
京司は、アンゼを見上げた。
そもそも、ここがどこかも分かってない。
見えたことを現実として受け入れているだけだった。
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