X話 街角の電気屋_3

     X_3

 京司が消えた翌日、健太はいつも通り学校に行った。

 授業は、退屈なテストの答え合わせに終始し、頭の整理の時間だけは確保出来た。

 放課後、門を出ると、ほぼその場で立ち止まり、道の向こうを見た。

「勝ち逃げされたな」

 同じく門から出てきた、小柄な男子生徒が声をかける。

「勝ち逃げ?」

「京司だよ。学年三位タイの成績残して、転校しちまってさ」

 行方不明の京司は、諸事情により転校した事になっていた。理由は、健太にしてみたら適当なものだった

「翔だって、七位じゃないか」

「そういう健太も、数学と化学がぶっちぎり首位で、物理も僅差で二位だろ。ま、社会科周りが散々だがね」

「そうなんだがなぁ」

 健太は再び道の向こうを見た。

「悔しいと言うよりさ」

「寂しいと。それはそうだろうな」

 健太と京司が、小さい頃からの親友なのは、周知のことだ。

「俺はともかく……」

「あー、なるほどな」

 道の向こうにある中学校から、まん丸メガネの、背が高い女子生徒が歩いてきた。

「あいつが心配でな」

「ヨメか」

「妹だ」

 京司の妹、沙織は、こちらに顔を向けると、ゆっくりと歩いて来た。

「おーい」

 沙織が手を振り、健太が返そうとした所を、キジトラのデカい猫が走り抜けていった。

「タレ助、こっち」

「ごにゃ」

 すりすり。

「猫に負けたか」

「勝ち負けとか、関係ねーし」

 健太と翔が、それを見ながら互いにつつき合う。

 そんな二人に、沙織はすぐに気がついた。

「カケルんに、ケンタロノスケ」

 沙織が気づいて、タレ助が走ってくる。

 その後ろを、沙織がが小走りについてきた。

「よっ、織姫。思ったより元気そうじゃないか」

「ゐっす、カケルん。その呼び方はー」

 翔の少し低い頭から言われ、沙織は苦笑した。

 兄の友人たちから「織姫」と呼ばれてるのはなんとなく知っていたが、直接呼ばれるとてれくさい。

「いやぁ、兄貴が転校とかで、もっとしょんぼりしてるかと思ったよ」

「くたばったわけじゃ、ないから」

 沙織は、しれっと答えた。

「おり、昨日はあんなに……」

 ビシッ!

 沙織の強烈な中段突き、の寸止めが、健太の腹に打ち込まれた。

「めっ」

 その足元で、タレ助が猫パンチしている。

「あー、織姫?」

「鍛えられてるから、ばあにゃんに」

 固まる翔に、すんと答える。

「ええと、ほら。ものすごく目が悪いって」

「そっち? 特に見てないだけ」

 どうと言うことない、という態度でさらに沙織は翔を驚かせた。

「ばあにゃん、てまだ呼んでたのか? しばらく見てないけど……でっ!!」

 タレ助の頭越しに、“優しい”ローキックが炸裂。

 そして、沙織の顔がみるみる赤くなっていった。

「め、めってばさ!」

 ぷい。

 沙織はくるりと踵を返して、すたすたとタレ助を従えて行ってしまった。

「なあ、ばあにゃんて、誰さ」

 翔がぽかんと見送りながら、健太を見上げる。

「ひい婆さんのことだと」

「へぇ」

 兄にベッタリのイメージだけだったが、可愛いところあるな。と、翔は思う。

 でかいけど。

――誰がでかいって? 

「健太、今なんか言ったか?」

「いや」

「気のせいか、ふむ」

 翔は誰かが心の声にツッコミを入れてきたように感じていた。

 それ以上に、別の疑問がわいた。

「で、アレ、ほんとに目ぇ悪いん?」

「間違いなく」

「そうは見えないのだが

「俺も驚いてる」

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