第3話 港街_c
船から少し歩き、港からほど近いところに初めの目的地はあった。
京司の言葉で言うなら、港湾施設の本部のようだ。
アンゼは京司を伴っていたが、やけにすんなり中には通された。
「なるほと、な」
理由はいくつかあったが、空で襲ってきた相手と関係が大きかった。
「まずは、アンゼちゃんが無事で良かった」
顔の大半に髭を生やした、年齢不詳の男が言った。
「ちゃん付けはナシだよ、グッラ。五体満足だけど、エンジンが壊れてさ。彼が応急処置してくれたんで、降りては来れたけど」
紹介された京司が「あ、どうも」と頭を下げる。
「応急? ああ、モリタの若もんか」
髭のグッラはさらりと納得した。
「別口だって本人は言ってっけどな」
アンゼは、笑いながら京司をつついた。
「別口って、ただの名前だよ」
「分かってるって。んでな、本題だけっと」
すっと、表情が厳しくなる。
「頼まれた荷、ほとんど運んで来れなかった。済まない、他の船は、行方不明なんだ」
「そのリスクは、承知の上だ。ここらも、急に物騒になってしまったからな」
グッラは残念そうだが怒るでもなく言った。
京司が「物騒?」とアンゼを見た。やはり、である。
「受け付けでちらっと伝えけど、連中にやられた。モリタには、まだロクに話せてないけど……巻き込みたくなくてっさ」
「俺は、十分当事者だと思う」
京司の問いに「そう思いなおして、連れてきたんだろ」と、グッラが割り込む。
「うん。ボクらが、あんな所で襲われてたのは、この、イブキ島に出入りさせたくない連中がいるからなんだ」
「独立派、だ」
ここはイブキという島だった。
最近、独立させようとしている一派が現れて、島への出入りを妨害していた。
上空でアンゼの船を襲撃してきたのは、まさにその一派で、一緒に移動中だった仲間がどうなったかは、今のところ分かっていない。
京司は、何とか事情が飲み込めてきた。
単独で出ても、危険なだけだ。
「深刻、だね」
少し青くなりながら、何とか事態を飲み込もうする。ただでさえ、知らない世界に飛ばされてきて、困りはてているというのに、だ。
「せめて、本国と連絡がとれれば」
グッラが渋い顔で腕を組む。
こんな様子までも、京司にはどうしようもないくらい、“異世界”だな、と感じた。
ゼスチャーまであまりに似ていることが、分かりやすくも不思議な感覚だ。
そこでふと思う。
物流法則、独立派含めて人々の動きや思いが似ているなら……
「説明するためだけに、俺を呼んだ訳じゃ、なさそうだね」
ここでのモリタという存在と、自分がアンゼの船でやったことを考えると、やはり修理か。直して、本国へ知らせに……
「さすが、察しがいいな。連れてきたかい、あっかな」
京司の予想通り、アンゼが動いた。
だが、直ぐに思わぬ注文が入った。
「まずは、本国に知らせるべきと思う。だから、町外れの通信局の復旧を頼みたい」
「え、そっち!?」
グッラの言葉にに驚いたのは、アンゼの方だった。
京司としては、動力系よりも得意分野だ。むしろ有難い。
「モリタと見込んで」
「あなたの言うモリタかどうか分からないけど、喜んで承ります」
「ありがとう」
グッラは礼を言い、ひとつ姿勢を正した。
「改めて、私はグッラ。この港の町名主だ。当面の生活は、面倒見させてもらうので安心してほしい」
お互い、仕事モードで言葉を交わす。
まずは居場所の確保と、何よりアンゼに世話をかけさせずに済むことに京司は少し安堵した。
あとは、ここの設備があっちと同じ原理で動いているか、だ。
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