第3話 港街_b

 京司は、適当に床へ就くとそのまま眠りに落ち、気がつくと朝を迎えていた。

 一瞬、あれが夢だったことを期待したが、残念なことに、そこに居たのは沙織ではなく、アンゼだった。

「お、おはよう」

「朝メシ食べて、出かけるそ」

 小さな寝室出ると、干し肉が乗せられたパンのようなものと、飲み物が 置いてあった。

「ドラゴンにメシを出されるなんて、滅多にない事だぞ。有難く食べれ」

 アンゼはふんぞり返るように言った。

「ありがたや」

 わざとらしく、京司が答える。

「で、この街を知ってるのか?」

「ここらでは、ね」

「じゃあ、頼む」

 と、京司は干し肉パンにかぶりついた。

――ん?

 美味い、と思うと同時に上手いこと懐に入られた、と感じた。以前から知っているような、だが妹とはまるで違う。

 取り敢えず、話しやすいからいいか。ドラゴンだけど。

「服とか食いもんとかの買い出しもあっけど、エンジンを直すのに必要なものとかな」

 アンゼは、食べ終わるなり外に出て、街を見回した。

 それなりに広く、色々店もありそうだった。

「有ればいいけど、相手はエンジンだし、ってエンジン?」

「どしたか?」

「いま、エンジンと」

「ああ、エンジンだな。空でキミがが直そうとして、壊れた」

 そっちは流石に専門外と思いつつ、「撮って行くか」と、ポケットからモビをを取り出した。

「鏡け?」

「いや、カメラがいると思って」

「平べったいなぁ、一枚撮り?」

「普通に連写も動画もとれるって。一応、最新型のモビだから」

「もべ?」

「モビ! よくある携帯端末」

 “モビ”――Mobile Instrumentは、かつてスマホと呼ぼれていたが、最早電話とは言えなくなるに従って呼び名が変わった物だ。

 京司は、船から降りる前に“エンジン”が有った小屋に向かうと、モビを起動して写真を数枚撮った。

 ふと残りの電源が気になり、一緒に飛ばされてきた工具箱を開ける。

「オーケイ、行こうか」

 中には、常備していた非常災害向け手回し充電器と、予備バッテリーが無事に残っていた。

「やっぱりキミもモリタだな」

 アンゼが横から覗き込む。

「どういうこと?」

「変なものだらけだ。なんだ、その黒いのは?」

「ジャンプスターター、と言っても分からないか」

「わかんない。電池か何か?」

「だいたい合ってる」

 ようは、余った電源パーツで作った、ガソリンエンジン用の緊急始動電源だ。

「そんな電池じゃ、すぐに切れると思うぞ」

 確かに、瞬間的なパワーはあるが、すぐに電気が尽きる。

「まぁ、な」

「変なの」

「俺にとっては、周りの全部が変なのばかりさ」

「んだね」

 アンゼすまして言うと、翼もなしにふわりと飛び上がり、適当な舷から桟橋におりた。飛び降りた

 京司が「わ、待てよ」と後を追い、飛び降りる。

 飛んだ船べりは思いのほか高く、背丈の二倍以上あったが、京司は自分でも驚くほど着地が決まった。

 アンゼは一応待っており、「おっ、やるでないの」と街に向かった。

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