第X話 街角の電気屋_2
X_2
森田電気の二階は、明かりはついているのに電気が消えたようになっていた。
「消えたのか、落ちたのか……」
ぼそり。
健太が、何かを取り落としたかのようにつぶやいた。
その横で、妹の沙織がどうしようもなく遠くを眺めている。
訳も分からないうちに、妹たちが見ている目の前で、京司がどこかの中に落ちて消えてしまったのだ。
「ごなー」
いつの間にか、二人の足元に小さな家族が来ていた。
タレ助はのたのたと京司が消えたあたりまで歩いていくと、少し匂いを嗅ぎ「ん~な?」と何か、いや何処かを覗き込んだ。
「タレ助…?」
沙織が手を伸ばそうとすると、タレ助はそんな手は無視して、ぽいぽいと中空にネコパンチを放った。
そして、安心したような顔で同じ場所に頬ずりした。
「ごにゃーお」
タレ助はやっと振り向くと佐織の手を二つ舐め、ぐりぐりと頭を擦り付けた。
「んな」
「大丈夫、なの?」
「おあ」
「そう、か。タレ助がそう言うなら」
「うみあーお」
両目を細くして長く鳴き、タレ助はてこてこと部屋を出て階段を下りて行った。
「なあ、おりっち」
立ち去るネコを見送った健太は、気の抜けたような声できいた。
「タレ助、何でいってた?」
「たぶん。心配するな、って」
「そうか……」
ネコに慰められても、と二人が放心しているところに、こんどはドカドカと階段を上がってくる足音がした。
「タレ助が呼ぶからきてみたら、なんだ、お前らか」
「父さん!」
「あー、邪魔したな」
現れた京司と沙織の父、康之は、能天気な勘違いをして回れ右した。
「親父さん、そんな事言ってる場合じゃ」
健太があわてて制止し、状況を話そうとした。
「分かってるよ。タレ助に聞いたからな」
康之は肩を落としつつも、さして驚くでもなく言った。
「まったく、先代と同類というかなぁ。しでかすとは思ったが、大人になってからにして欲しかったもんだ」
赤い巨大まな板に視線が刺さる。
「ま、そのうち帰って来るだろう。それまで、沙織を頼むよ、健太くん」
再び、康之は健太の背中をトンと叩いて、再び踵を返す。
沙織が健太の手をずっと握っていたのに気がついていたが、あえて黙っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます