第12話 メッセージ

 あの説得の後、しばらく個々で考えてもらうことにし、優紀は湖畔へ戻ってきた。そこはここへ来たときと変わらず、美しい湖面をゆらゆらと揺らし優紀を迎えてくれる。


その光景を見た途端、安心して力が抜け、どっと疲れが体にのしかかってきた。たまらず、砂浜にダイブする。全身じゃりじゃりに砂にまみれることなどどうでも良かった。とにかく疲れた……。

ざぶん、ざざんという潮騒を聞きながら、うとうとと眠りの淵に滑り落ちる。なにも食べてないけど、まあ昼寝ということでいいかな。そんなことをうつらうつらと考え——……。


                  ○


ふと目を覚ますと、夕暮れ時に差し掛かっていた。美しい夕日が、湖畔を、砂浜を、優紀を、暖かく優しく包み込んでくれている。


「んぉ・・・・・・ゆうがた・・・・・・?」

「起きたか?」

「ん、ロボおはよ・・・・・・。」


目を擦りながら体を起こす。体の節々がバキバキと音を立てて鳴った。寝返りをうたないほど爆睡してたのか・・・・・・と苦笑いが漏れる。

夕日の暖かさの助けを借りてストレッチで体を解していると、すぐ側に置いてあるものを見つけた。……果物の山だ!拡げた大学ノートの上に桃や林檎、バナナなどの果物がこんもりと載せられている。


「えっ⁉えっ、なにこれ!」美味しそう、とつい這い寄る。

「ロボ、これロボがとってきてくれたの?」

「いいや?俺じゃあない。」

「じゃあ誰が・・・・・・?」

「俺は口止めされてるんでね。ノートでも見ればわかるんじゃないか。」

「ノートを・・・・・・?」


心なしか上機嫌に見えるロボを不思議に思いながら、果物を一旦除けて大学ノートを見てみる。するとそこには一面に、


「先生ありがとうな、俺やっぱり子どもに会いたいや。」

「ゆうきさん、実は私以前本を出すのが夢だったんです。思い出させてくれてありがとう。」

「僕も姉ちゃんにちゃんとお金返さないと。それに姪にあげるお年玉、こっそり貯金してたの忘れてた!」


甲子、宮地、浅見のメッセージがそこにはあった。

・・・・・・よかった。伝わった。ちゃんと私の言いたいこと、伝わってた。ほうと安堵のため息をつき、まじまじと文面を眺め直す。本当によかった。嬉しくて嬉しくて、書かれた文字を指でなぞって何度も読み直す。

・・・・・・すると、かすかに裏移りしている文字があることに気がついた。次のページにもなにか書かれてるんだ!と慌ててめくるとそこには


「俺も、酒癖を直して、向こうで君に会ってみたい。どんなお姉さんなのかな、今から楽しみだ。」

「意意地悪してごめんなさいね。私は向こうに帰るのが怖いの。本当に怖い。でも、確かに怖くてここにずっと居座るのももう違う気がしてきたわ。勇気を出して帰ってみるから、向こうでまた会ってくれる?」 


そう、綱嶋と奏のメッセージがあった。奏の文章はところどころよれて滲んで読みづらかったが、どれだけの覚悟をもってこれを書いてくれたのか想像させるには十分だった。有り難くてたまらない。思わず大学ノートを抱きしめる。・・・頑張ってみて良かった。諦めなくて良かった。




皆で、帰ろう。

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