第18話 いつもの朝のはずだった

【魔人化】騒動から1夜明け、

普段通りの生活を送る街の人達、

朝日が出る前から準備を始める魚屋や八百屋に

日が昇り、朝の合図とも言えよう光に

目を眩ませながら起床する学生達

そんな彼らは毎日の同じサイクルで動く

それはまるで歯車のように、多少の変化はあるが

それでも根本的には変わらない毎日に飽きもせず

何かを目指して歩く人達を後目に

この国は一日を開始した


世界という大きな時計を人間という歯車が重なり合い

街という秒針が動き出す


誰が言ったか、何かの文献だったか

そんな言葉を思い起こしながら俺は朝を迎えた

体のだるさは未だに残っていて

目を開けるのも億劫になる、それでも目を開け

カーテンと呼ばれるものを開ける

こうしてちゃんとした寝床で寝るのは

やはりまだ慣れない、そんな私だからこそ

藁や土の感触が少し恋しくなってしまうと、

なんとも残念な感性を働かせていた所へ

コンコン

ノック音が聞こえた

私は特に何も考えずに返事をしてしまった

水無月「空いてるぞ」

門番?「おぉ すっかり元気じゃないか 」

その言葉だけで私の目は覚めきった

それと同時に警戒心をフルに上げた

その間の抜けた声は何処かで聞いた声だった

いやそれよりも、なぜ私に元気と声をかけるのか

街の住人には私が【魔人化】したという事象は

確認されていないはず

という事は、

門番?「おいおい、そんなに警戒しなくても

特に何かをすることは無いから安心しな

まぁ見舞いに来たがそんなに動けるなら大丈夫だな」

嘘は言っていない、その瞳は何処か諦めた瞳で

武人の雰囲気を感じる、やはり門番にしては強すぎる

水無月「…そうか、すまないな

俺はこのとおり大丈夫だから、

自分の仕事に戻ってもいいぞ」

門番?「そういう訳にもいかないんだよなぁ

なぁあんちゃん、

おじさんがなんで記憶がなくなってないか

知りたいだろ?」

水無月「まぁ、な

でもあんたと絡むとろくな事になりそうにないから

スルーしようとしたんだ」

門番?「ハッハッハ!

合格だよ!あんちゃん見る目あるねぇ

俺の二つ名は【迷惑な付人】だからよぉ

一応この国の冒険者統括ギルド【ハルペント】の

団長なんだが、知らないか?」

水無月「まだこの国に来て日が浅いんだ

すまないが説明をしてもらってもいいか?」

団長「あぁ、勿論構わねぇよ」

そう言うと彼は饒舌に語りだした

この国での冒険者の役割は主に

魔物の討伐、犯罪者の取り締まり、門番、

商業団体の護衛、雑用等の有り体に言えば何でも屋

そんな冒険者達は今回の【魔人化】騒ぎで

記憶を失ったものはほとんど居ないらしく

俺と言う【狂人】を発見していた団長ハーキスは

こうして見舞いの振りをして探りに来ていたらしい

だけどどうやらお眼鏡にかなったのか

警戒する必要ないと思われたのか

こうして話してくれた

まぁ俺自身なにか危害を加える気はもうないので

警戒されても困るのだが…


彼のギルド【ハルペント】では、冒険者に対する

依頼や、アイテム等の売買を行っているそうで

奴隷の扱いもしているらしいが

ハーキスはそれを嫌がっており、奴隷制度の解放を

求める資金をギルドで集めているらしい

大きなギルドには

悪人が紛れ込んでいる場合もあるらしく

つい先日も懲らしめたと疲れきった顔をしていた

饒舌に語っていたハーキスはピタリと話を区切り

突然、

ハーキス「なぁ、あんちゃん

俺のギルドに入ってくれよ

あんちゃんの実力ならすぐに幹部

いや、副団長にまで上がれるはずだ

冒険者登録費用もこっちが持つし

武器とか揃えてやるなぁどうだ?」

ここまでの話的に予想はしていた、

冒険者は危険な仕事であることは承知していた

だが、ハーキスの話の中には具体的には

死傷者が出でいなかった

もっと言えば奴隷を使った事件等もある筈だ

その冒険者の黒い部分を話ない時点で勧誘の可能性は

十分にあった

水無月「その誘いは魅力的かもしれないが

断るよハーキスさん

俺にもやりたいことがあるんでね」

ハーキス「そうか、残念だ

こうして話しててあんちゃんは只者じゃないと感じてダメ元で誘ってはみたがやっぱりな…

よし、なら遊びに来いよ

職場見学的なノリでな、

もしかしたら気が変わるかもしれないぞ?」

水無月「まぁちょうど今日は暇してるから

今からでいいって言うなら行こうかな」

ハーキス「おっ!そうとなりゃ今すぐ出発だ!」

水無月「…支度ぐらいさせてくれ」


‪髪を整え、軽く体を動かしながら準備をしていると

あることに気づいた

…服がない…

そう、こちらの世界に来てアリシエの魔法で

魔物の皮から作った装備があったが

昨日ぶっ壊れたから、

この寝巻きはレミから貰ったものだし

寝巻きで行くのも…

仕方ない、

水無月「ハーキスさん1時間待っててくれ

準備に時間がかかりそうだ」

ハーキス「?…あぁ、そうだよな時間がかかるな

OK、いつものように門番としているから

終わったら門まで来てくれ」

ハーキスさんの了承も得たことだし

私は持ち前の身体能力高さを生かし

すぐ様アリシエの部屋へと向かった

そしてあろう事かノックせずに入ってしまったのだ

入ってしまって酷く後悔した、

彼女は着替えを行っていたのだ、

あっ…

そんな言葉を発するよりも前に、

神速のビンタをくらった

それは文字通り神速、よってかの【狂人】に対しても

致命的なダメージを負わせた

水無月「…すまない…本当にすまない」

アリシエ「…もう怒ってません…

それより大丈夫ですか…?」

水無月「問題しかないと思うけど

何とか生きてる」

アリシエ「そうですか…では次からはノックをして

入ってくることを心掛けましょうね

私も貴方におわせた傷が浅くありませんから

一応おあいこってこどでおしまいにしましょう

それで?何か用事があったんですよね」

水無月「俺の服アリシエが作ったやつしかなくてさ

でもそれも昨日壊れちゃったから

新しいのを作って欲しいんだけど、できるかな?」

アリシエ「服自体を作るのは簡単ですし

なんなら今もう作りましたけど

何処かへお出かけですか?それなら…一緒に」

水無月「いや、今回は一人で行くよ

服ありがと……次からは気おつけます、」

そう言い残して彼は行ってしまった

アリシエ「……」プルプル

彼女は必死に恥ずかしさを我慢してました

それを顔に出さず態度にも出さずに頑張っていました

それなのに特に恥じることも無く

本当に申し訳なさそうにしていた彼を見て

何故だが負けた気分に陥ってしまいます

女神の裸体というのは言ってしまえば

最高の逸品なのですが、それを見ても

特に何もしないのは彼が彼だからでしょう

それが彼の良さなのですが…なんとも釈然としません

女としてのプライドというものがあるのですから

そして最後の会話の中で私もついて行くと

進言したにも関わらず彼は服だけを持って

出掛けてしまいました

なんとも、なんとも不幸というか災難というか

残念な気持ちの彼女を慰める焔の姿がありましたが

それは少し後のお話








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