第14話 またしても彼は狂人へと

殺せ、喰らえ、潰せ、壊せ、

止まらない感情

私の中の【狂人】が呻く、嘆く、叫ぶ、

殺せ、喰らえ、潰せ、壊せ、

身体中を駆け巡るなにかの感触

恐らく瘴気の影響によるものだろう

真の私、昔の私、本当の私、

決して開いてはならならい禁忌の扉の先に

私という不変の存在がいた

殺せ、喰らえ、潰せ、壊せ、

私はそれしか知らない

理性という私と

本能という私は

大きな矛盾を抱えて生きる

欠点だらけの人形

悪の化身として、人の敵として

そう生きることしか出来なかった

哀れな本能の私

失点ばかりの人形

考えて、自分を律して、今度は人の味方として

生きようと思った

惨めな理性の私

結局、理性は負ける道理なのだと改めて知った

些細な衝撃で

ガラス細工のような理性は崩れ去る

殺せ、喰らえ、潰せ、壊せ、

あぁ…私とは

こうあるべきだと思うのだ

たかだか瘴気に当てられただけで

こうなってしまうというのなら

もう全てを失って

1人で生きるのもいいのではないだろうか、と

そう割り切れたのならどれだけ楽か


だが誓ったのだ

誓ってしまったのだ

この世界を救ってみせると

彼女たちを解放してあげると

ここで転んでどうする…

ここで諦めてどうする…

……

割り切れたと思っていたんだけどな

決して忘れてはいけない過去は

まるで呪いのように体に残る

そうして蝕んでいく

たとえ許されようとも

たとえ救われようとも

過去とは消し去ることが出来ないのだ

理性は崩れて本能に侵食され

本能は暴発し身体を侵食していく

ここで勝ってみせるのが

【勇者】というものだろうが

どうやら私には【狂人】の方が

似合っていたのかもしれない…

すまない…アリシエ

私はどうやら

人々に仇なす【敵】でしかないようだ

仮初の私ともおさらばだな

あぁ…そうだな【朋】よ私も今…行こうではないか


そう決断した彼の目は

吸い込まれそうな青に染っていた


焔「間に合わなかったっす…」

私は今…自分の無力差に腹が立って仕方がない

もっと速ければ、もっと賢ければ、

もっと、もっと、

ここから機械都市メドリアまで

あと少しまで来たところで

この禍々しい気配を感じた

それは1度受けたことのある気配

そう水無月さんの気配だ

以前とは比べ物にならない…

まず質が違う…

…っぅ…

気を抜くと気絶してしまう…

私は自分の頬を噛み、痛みで自我を保った

それほどまでに濃厚な殺気は

人がだすそれでは無い

焔「…これが魔人化…?」

任務上、魔神を相手に何度か戦ったことがある私だが

これほどまでに怖いと、恐ろしいと思ったことは無い

足が竦む…行きたくない…

そんな感情が私を支配する

焔「あぁ…無理っす…怖いっすよ…」


焔は…このか弱き少女は

身体が、心が、自分のものではないように思えるほど

言うことを聞かなかった

その少女は

心が折れてしまったのである

無理もない話だ

彼の放つその気配を感じた市民たちは皆

昏倒し、実力ある兵士たちですら

焔と同じように心が折れる

彼女は悟った…実力なんてものじゃなく

生き物としての質が違ったのだと



レミ「これは…すごくまずいなぁ…」

新魔法の実験をしていると

医療室からとてつもないほどの殺気を感じた

私は戦場に立ったことは無いけど

これが殺気と分かるほどには

恐ろしかった

正直、逃げだしたい、怖いし相手にしたくない

若干20歳にして国王になった私でさえ

怖いものはある

精神力どうこうの問題じゃない

心の底から震えてくる

寒い、

血の気が引くなんてものじゃ無い

いっその事殺してくれた方が気が楽な程だ

レミ「…はは…どうしろっちゅうねん」

可笑しくなった

笑わなければ泣いていたかもしれない

彼を始めてみた時

どうしようもないほど可哀想に見えた

あぁ、彼の人生はきっと波乱万丈なんてものじゃない

地獄でも甘いくらいの人生だったのだろうと思った

私の看破の目はそれを即座に察知した

そして彼はどうしようもなく優しい

底抜けの優しさと恐ろしさをもった青年

興味を引かれるには十分すぎる逸材だった

そんな彼が魔人化すると聞いて

すぐさま駆けつけた

その顔は安らかと言えるほどに落ち着いてて

嘘ではないかと思えるほどだった

でも腕の立つ直属のドクターは

はっきりと魔人化と言い放った

魔人なんて文献でしか知らなかった

各地域では稀に起こるらしいが

この都市で起こるとは思ってもみなかった

それに起こったとしても

多分ここまでは酷くないのだろう

今実験を手伝ってくれてた研究員達が

いきなり倒れた

この濃すぎる殺気にやられたのだろう

それほどまでに恐ろしくおぞましかった


…魔人化というのは一種の病気のようなものである

だから解決する方法も確立してはある

ここから遠く離れた山奥に

魔人化を打ち消す特殊な薬草が生えている

効力が短く保存に適していないため

いちいちその場所まで取りに行かなければならない

私達の中で最も脚の速い焔でさえ

数日はかかる

レミ「焔ちゃん…間に合わなかったのね…」

攻める訳では無い

むしろ褒めてあげたいよくやってくれたって

でも…絶望的な状況なのは変わらない

国王として…いいえメドリアの民として

果たすことは、焔が戻って来るまでの時間稼ぎ

私達では彼には敵わないから…

怪我人が出るだろう…

後悔したって後味が悪いだけ

召喚するって決めたのは私

全責任は私が負う

レミ「さぁ…

国を守る大舞台、派手にぶちかますわよ!」


きっと彼女は

この世で最高峰の人物であろう

国の為ならば自分の身など関係なしという

寛大な心で、民からの人望も厚く

国王としての器も歴代最高峰

魔法の技量、戦の策略に

絶大なセンスを誇る彼女でさえ

この後に起こる戦いの行方は

検討もつかないのであった

だが一つだけ確かなことはこの国には

緊急時の生命装置をつけであるため

怪我人は回避出来ないが

死人は出ないことが唯一の救いであろう

たとえ国がなくとも民がいるのなら

その上には王が立つ

人間達はそうして強くなってきたのだ


アリシエ「…ぁ……」

声なんてでなかった

信じていたのに、答えてくれない彼に私は

絶望した、失望した、そして何より、

この溢れる消失感にどうしようも出来なくて…


痛い、痛い、痛い!

やめてよ!ねぇ!やめてよ!!

どうして…どうして私を裏切るの!!!


だし得る全ての力を振り絞って

彼の治療に専念した

ほぼ一日中彼の傍で彼に語りかけた

何故こんなにも胸が痛むのか

何故こんなにも貴方を思っているのか

ただの間違いで始まったこの関係も

今はどこか運命のようにも感じる

女神が人間に対してこのように想うのは

本来ありえないことだろう

神だって感情がある

それは歳をとる事に欠乏していくものだが

まだ1000歳ぽっちの私だから

こうして想うのだろう

…いや、治療に専念しなくては…

煩悩を振り払うように頭を降った彼女だったが

いつ見ても痛々しい彼の身体に触れ、

その命の本流たるものに触れる

【浄化】

どれだけやっても彼が目覚めることは無い

だがそれでも必死にやる彼女の目には

何が写っているのか

その本来は着いていいはずもないほどの

夥しい数の傷か

それとも

地は死体で、空は血で、人は皆死人

その尽くを喰いつくし

その地へと縛り付ける【狂人】という心のあり方か

否、

彼女はその美しい眼で

地は生ける草木が生い茂り、空は青々とそこにあり

人は皆笑顔で街を作り出す

そしてその世界を築き上げようと

努力し、研磨し、後に成し遂げた

【勇者】という心のあり方を信じて

見続けた

それが幻想だと知らずに

信じて見続けた彼女を攻めるものは

誰一人としていない



機械都市メドリアには

今朝のような活気がなく

人々はまるで死んだかのように動かない

さてそんな状態に陥ったこの国はどうなるであろうか

この国は文字通り機械都市

歯車ひとつかけただけで起こってしまうのは


ピキ…バキ…

そう【崩壊】である

その些細な音をスタートに

轟音となり、次第にこの国は滅びゆく

皮肉なもので

世界を救うため【勇者】として召喚された彼は

またしても世界の破滅をもたらしてしまうのか

もはや止まることのない【崩壊】の中で

彼等はどう戦うのか

相手は【狂人】

数多の血肉を喰らい

死体の上に今も尚立ち続ける男

そんな彼を止めるのは

彼を思う彼女か

国を思う彼女か

復讐を誓った彼女か

それとも…



狂人「私は…涙すら血の色に染ってしまったのか

誓った願いは空へ消え

拝んだはずの平和は私自身が壊してしまった

許されようと必死に足掻いた私だが

やはり私は【狂人】でしかないようだ

…っ…さぁ!勇敢な戦士たちよ!

私と言う名の敵を打ち砕いてみせよ!

そして!この国を救ってみせよ!」

【狂人】としての彼に

優しさなんて生ぬるい感情は




ない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


はいはいはーい

作者さんでーすよー

シリアスだねぇ

主人公が闇堕ちしたねぇ

というか元に戻ったねぇ

さぁ!そんな水無月を打ち破るのは誰なのか!

乞うご期待!

そんな訳で

第14話

読んでくれるあなたに!

届け!この思い!

まだまだ駄文を書き続けると思いますが

どうぞこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m



















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