悪子の胎動
そこは暗く深く悲しい世界。万物の王の生み出した「最悪」の創造物の住処。
いかなる英雄も希望も、奇跡すらこの『最悪』の前では何もかもがひれ伏し膝をつくそして助けを願う。ここでは何もかもが無意味であった。
今、『最悪』のその禍々しい手は一人の赤子を包み込んでいた。暗い手の中で眠る一つの赤ん坊。だがその赤子も最早死にかけている。辛そうに息をし顔色は青ざめている。体格も平均的なものと比べると少しばかり小さいように見える。呼吸系、循環系ともに虫の息であった。
「なんて可愛いのかしら、私の赤子は。ダメよまだ死んじゃ。貴方の命はこんなところじゃ終わらない。貴方にはしっかりとした使命があるの。それはこの偉大なる母から貴方に贈ることのできる唯一のもの。我が最涙の子ファルテよ、この世界を恨みなさい、そして嘆きなさい。そして、焼き尽くしなさい。貴方にはそれほどの力がある、権利がある。誰も貴方を止められはしないわ。可愛いい可愛いい我が子よ。貴方にプレゼントを上げる。大事に使うのよ」
『最悪』は赤子の胸にその大きな手をかぶせた。赤黒いもやとともに胸がほのかに光る。赤子は息を止めてしまった。だが彼は死んではいなかった。その大きな『最悪』の威光と一つになったのだ。かれには今一つの『天命』とルーン文字が刻まれている。『天命』は彼の『神格』に、数多くのルーン文字は彼の両腕に刻まれた。
「だって、私の子ですもの。愛しているわ」
「最悪」は赤子の額に口付けをした。口付けをされた場所が赤く光る。赤子は泣き出した。どうやら『最悪』の威光と分離しその命を取り戻したようだ。赤子のルーンは強く光っている。その輝きは綺麗な青色であった。
「まぁ、青色の属性色!流石我の子、生まれてすぐに属性色の称号を手に入れるなんて、相当親が優秀なのね。大丈夫、我は強いわ。この世界の何よりも強いわ。でも今は、まだ我慢しなきゃいけないみたいね」
「最悪」は空にゲートを描いた。指でなぞった部分が青く光りそこに線が残る。ルーン文字と簡単な図形で描かれるその門が完成すると、文字が消えるとともに全体が赤黒く光り、そこに『ゲート』を作り出した。
『最悪』はそこに赤子を差し述べた。
しかし、その行為をよく思わない輩が一人存在した。
「や、めろ、そんなことはさせんぞッ」
その瞬間、『最悪』の後ろから光瞬く長槍が飛来し彼女の背中を貫ぬいた。
「フッ、流石は原初の総神、別格ね。でも、そんなものじゃ、無理よ」
「やめろッ!その子は悲しみしか生めない、悲劇しか生めない。それはその子にとっても同じだ!」
「うるさい!少し、ばかりの不幸しか知らない成功者が、何を知るのよ。その根拠はなによ!ファルテ、貴方には私みたいな思いはさせない。貴方は、、貴方は、、私の希望の光なの、、、。お願い、私を救って、、」
「やめろおおぉぉぉぉ!!!」
光の長槍が『最悪』の背中に飛来しその背中を穿つ。しかしその執念怨念はそれごときではかなうものではなかった。
「行きなさい我が子よ!この世界を壊しなさい!」
その刹那長槍が再び飛来した。その槍は『最悪』の『神核』を貫きそしてそのまま赤黒く光る赤子を貫く、はずだった。
『最悪』は一歩後退しわざと速くやりにぶつかることによりその槍の動きを赤子の手前で止めたのだ。
「だめだ、ダメだ!神界が、この世界が、壊れてしまう!」
赤子は泣き叫んだ。赤子はその体が光り始めるを止めない。光っていながらそれは決して明るくない。漆黒にも似たその輝きは彼の母『最悪』にそっくりである。
赤子は『ゲート』を通り神界へと移動してしまった。
ゲートは閉じられた。
取り返しのつかないことが起きてしまったのである。
これはまだ「大悲劇」の起源にすぎないしかしそれは確かに「大悲劇」の幕開けであった。
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