噂猫と物語音楽

天高く運行する月に照らされ青々と輝く美しい海を遮る高くそびえた壁の上を一人の猫の娘が歩いていた。 

 その歩きは猫のように静かでそっとしていながら歩き方そのものはヒトのものである。その娘はあたりは雪一面だというのに何も羽織らず寒そうな服装で歩いていた。

 歌いながら壁の上を歩く様子は魅力に満ち溢れていた。

 真夜中の大都会の上、屋根や壁を軽やかと少女は歩き去っていく。彼女の後ろにいる黒猫も彼女のあとを追い、心地よさそうに夜の街を巡り歩いている。

 美しい大都会であった。屋根や街頭のランプの上のには雪が降り積もり、近くを流れる川もとても冷たい。冬、であるはずだが町は全く寒くなかった。商店街やアーケード街は暖かく、心地よい温度に保たれており半袖で歩く人もいる。冷たい風が吹くこともない。雪は降っても地面に来るまでに必ず溶けてしまい、わざわざ傘をさす必要もない。この世界の科学技術の発展は地球のそれをはるかに超えていた。

 彼女の歌は愉快ながらその内容は躁鬱。すこしでも知識のある人が聞けばそれはまさに恐怖の歌であったであろう。しかし彼女はバットエンドを嫌った。

 その歌は伝説のような、おとぎ話のようなものであった。

「万物の王は悲劇を創り♪

 不幸な娘は希望を託し♪

 止まらない怨念はこの世をかけ巡り♪

 完成しない永遠の理想はいつまでたっても吊るされた人参のようで♪

 止まらない崩壊はだぁれも気づかない♪

 「当たり前』になってしまった戦争は死を「当たり前」にし♪

 盛者必衰でありながら盛者永盛であるこの世界は狂ってて♪

 矛盾しか生まない『天命』の能力はホントにいるのでしょうか?♪

 あゝ、この世界に救世主いるんだった!♪

 その名は――。彼ならきっと、救えるだろう♪

 ふんふふんふふーん♪(ハミング)」

 しかし突然彼女らの後ろに二人の男が現れその娘を捕まえた。そう、突然に

 彼らは正真正銘「空間移行」してきたのだ。

 黒猫は一瞬で逃げてしまったようだ。なんと無慈悲な。

「やっと捕まえたっ、この泥棒めっ」

 白髪の青年は少女を捕まえ持ち上げた。

 白髪の青年は全体的に服装、装備が白く目すらも白いように見えてしまう。屋根の上には雪が積もっているので彼は背景と同化して本当に見えにくい。ただ彼は全体的にキラキラしていて「シャイニング!」的な印象を与えるがそれ以上に「シャイニング!」してるのが彼の相棒であった。

 隣にいるその「シャイニング!」している男は髪は金色、目は白目が銀で黒目が金色、服装は大体が金と銀色であるがところどころに黒色の線や模様が入っている。これだけでも十分「シャイニング!」しているのだが極めつけは腰に携えているその剣。彼の腰の右にはルビーに似た素材できた鞘があるのだが、金剛螺鈿虹色様々な宝石の装飾がちりばめられており夜であってもとても見やすい。というか視界に入った瞬間その剣がチカチカしてすげぇイライラする。小学生の時にやった定規で太陽の光反射してやる嫌がらせに似てる。なんだこいつら2人そろってキラキラしてるな!ウチはBLじゃないぞ!

 猫の娘は男二人を一瞥すると両手の爪を交互にシャッシャとすり合わせた。速いがそれでいて器用に爪の先だけを削り合わせ上手く研いでいる。彼女は癖なのだろう。

「少しだけおこぼれを頂戴しただけニャ」

 白髪の青年の発言に対し真っ向から彼女は否定した。実際彼女の発言は容疑を認めているということなのだがその態度、言い草からして否定する気満々である。

 猫はプイッとそっぽを向き気持ちその明るい頬を膨らませた。尻尾がゆったりと弧を描くように、魅力的に動く。その尻尾の動きに合わせてスカートがひらひらと動くのだがなぜか中身が見えない。ねぇ、なんで?

「ばちこり盗んだって言ってるようなもんじゃねーか。ほら、パン屋のおじさんに謝りにいくぞ」

「パンじゃない!マタタビじゃ!」

 ニヤリと笑う白髪の青年。どうやら猫の娘はまんまと青年の作戦に引っかかってしまったようだ。

「今、確かに『マタタビ』といったな?」

 しかし猫の娘は一向に焦りの様子を見せない。流石猫なだけある。

「猫ちゃんはいかなる法の裁きもうけないのでーす。所詮こんな不完全な世界の法じゃ裁いても意味ないわ。それより、『オティシオの鎌』が一時的に現界した件はどうなっているの?」

「あぁん?!てめぇ法神様は不完全だっていうのか?」

「もういいだろ、スカンノ。それより『オティシオの鎌』の話、本当なのか?」

「おっ、ハガルドじゃん。私達『噂猫うわさねこ』は騙しはしても嘘はつきませんぜ」

「大体いつくらいの話だ」

「今日の午前2時10分らへんよ。あんたら情報ガバガバみたいだけど本当にそれでも『八遡レヴォルターズ』なの?」

「さっきからお前なぁ!」

白髪の男-スカンノは多少お遊びとはわかっていながら猫の娘-『噂猫』を戒めた。

「スカンノ、いいだろう」

 「シャイニング!」な男-ハガルドはスカンノを少しにらみ抑えるとありがとうと『噂猫』に言い一瞥した。

 こちらこそまいどぉ!と言って猫の娘は消えてしまった。そう、パッと。なんの術式も組まずに消えたのだ。さらにこれがあの天下の『八遡』二人を相手にしたのだからまさに神業。伝説に残りこう背に伝えられてもいいほどの所業である。

「って、マタタビ代は俺たちで出せってことか。チッ。なぁハガルド、今の女の話、どう見る」

 真実を与える対価としその相手には何かしらの報酬を事前にもらうという形で取引する。これが『噂猫』のやり方なのだ。

「おそらく事実だろうな。さっきもあいつ自身も言っていたが『噂猫』は決して交渉のネタの内容については嘘をつかない。流石に敵勢力が『オティシオの鎌』を出してくるとは驚いたがこっちも純粋な人の子が加勢したんだ。相手も牽制が必要になってきたのだろう。まぁ逆に考えれば今のところ敵勢力とは対等に駒を進められているってことなんじゃないかな」

「だがあの「処刑」の概念をもつ『天命』クラスの武器だぜ?使えばどんな聖獣も一撃で殺すことができる武器。しかも『恒久死』の状態付与付き。人間一人にここまでやる必要あるのかなぁ」

「月華君の登場、そしてあの功績で我々神人の人間に対する見方は変わろうとしている。おそらく今回来てくれた人間も相当な『天命』の素質があるんだろう。彼らはもうただの『生贄』ではない。僕は思うよ。彼らなら我々にもできないことができるもしれない、彼らこそ、『理想郷Paradox』を創りあげることが出来るかもしれない」

「ふーん。まぁ、そんときは俺たちも加勢して皆で創りあげなきゃだな。よしっ、とりあえず月華君のところ行ってとっとと同盟の話つけないと」

「ほお、そんな話があったのか。一体彼はどこと話をするつもりなんだ?」

「あいつはウルズ達と組みたいって言ってたぞ。流石は月華君、とびぬけた案出すよなぁ」

「ふん、彼らしい。『相手を選ばない」の新しい使い方ができそうだなこれは。面白い!そうと決まればスカンノ、早速飛ぶぞ」

「あいよ!」

 二人も猫の娘と同じくその場から消え去ってしまった。どうやらワープはここでは日常茶飯事らしい。

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