12月17日 まあいいか

 えらく寒くなってきた! 


 12月17日、木曜日。晴れ。繰り返すが寒い。ゴミ出しがしんどい時期になってきた。


 昨日から母は傾眠状態に突入した。薬のおかげだ。起きて痛みを訴え続けるよりは、本人にとっても家族にとってもこちらのほうがまだいい。意思の疎通はとれなくなるが、それでも食事さえできればどうにかなる。どうにかなると思っている。


 15時くらいにふと思いついて、母の耳元にアイフォーンを置き懐メロを再生した。どういうものが好みか分からなかったので、手当たりしだいに掛けた。再生リストは以下のようなものである。


 いつでも夢を

 ラブ・イズ・オーヴァー

 あずさ2号

 津軽海峡・冬景色

 勝手にしやがれ

 恋に落ちて

 また逢う日まで

 襟裳岬

 なごり雪


 おのれの必死さが偲ばれる選曲である。好みがわからないと「昔テレビで流れていた曲」しか流せなくなるのは仕方がない。

 気のせいかも知れないが、リズムに合わせて左腕が動いているような気がした。こういう気のせいは悪いことではない。


 18時、うつらうつらとしながらもなんとか食事ができた。薬を飲ませるまでの間、何かを呟きながら楽しそうな顔で手を動かしている。口元に耳を近づけて何度か確認してみると、母は「なごり雪」を歌っていた。やはり夢うつつながら聴いていたのだ。

 音程も言葉もリズムも何一つ合っていない。だけどこれも音楽だ。音楽マニアが何を言おうと関係がない。

 痛くて苦しく、重い嘆きが続いていたここ数日の出来事を思い返してしまい、何かが込み上げそうになる。久しぶりに楽しそうな顔をしながら歌う母に合わせ、背中を軽くポンポンと叩いた。本人が一番大変なのに、今まさに大変な状況なのに、それでも楽しそうに歌っている姿を見て、介護をしてきて少しだけ報われたと心の底から思った。


 報われようと思っているわけではないが、こういう奇跡的なことが起きるとそれだけで「まあいいか」と納得できる。もう少しがんばろう。


 と、ここまでが昨日の出来事。

 今日、17日は朝から大変だった。

 朝食を少しだけ食べさせ、薬を飲ませた後、横にする。痰が絡み始めた。どうやら相当な量のようだ。ティッシュやスポンジで取れども取れども呼吸の異音は止むことがなく、ついでに口を切ったのか血が止まらない。訪問看護に救援を求めた。

 吸引機を持ってきてくれた看護師さんは、細い管を母の鼻の穴にスルスルと入れていく。痰がズゾゾゾと機械に溜まっていく。それを何度も繰り返す。背中を押さえながらその様子を見ていたが、我が事のように疲れた。胃カメラを飲んだ時の疲れに近い。

 どうやら口腔内の出来物を歯で噛んでしまったらしく、それで血が出ていたようだ。もしかしたらもっと深いところからの出血かと恐れていたが、今のところその不安は消えた。


 その後、吸引機の軽い説明を受ける。一瞬だけ目が点になった。要するに「後はお前がやれ」ということである。もちろん鼻からはできないので口から。緊張してきた。

 頼むから痰を絡ませないでくれ、と願うが看護師さんによると「間違いなく痰の量は増えます」とのこと。やるしか、やるしかねえ!


 昼12時、早速呼吸が乱れたので挑戦。痰が出やすいよう横向きに傾眠させているのでかなりやりづらいが、なんとかなった。できる限り早めに気づいて楽な状態にしてあげたい。夜は2時間に一度確認すればいいかな。

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